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2007.12.15

「おんみつ蜜姫」 親子の絆と自己の確立と

 国元で育った豊後温水藩の蜜姫は、ある日、嫁入り先に決められた讃岐風見藩と温水藩の合併が密かに進められ、それを妨害するために公儀隠密が暗躍を始めたことを知ってしまう。これ幸いと出奔し、忍びネコのタマをお供に隠密として旅に出た彼女を待っていたのは、海賊に忍びたち、尾張柳生に、将軍吉宗の御落胤を名乗る天一坊…幕府を揺るがす大陰謀を前に、蜜姫の活躍や如何に。

 以前このブログで「入門者向け時代伝奇小説五十選」という企画を行いましたが、その後失敗した、と思ったこと(の一つ)は、米村圭伍先生の作品を入れ忘れたことでした。
 伝奇色の強いユーモア時代小説という希有な作品を次々と送り出している米村先生の動向は、時代小説ファン、伝奇ファンならば見逃すわけには行きません。

 そこで本作ですが、これもユーモアと伝奇の二本柱が楽しく嬉しい快作。「風流冷飯伝」「退屈姫君伝」などよりは前の時代、享保を舞台とした作品ですが、あの風見藩の奇習の創始者が登場したり、やっぱり冷飯と御庭番が活躍したりと、サービスと遊び心満点の内容となっています。

 しかし、ユーモアだ伝奇だと言いつつも、その実、シビアで現実的な問題を描いていくのもまた米村流。エキセントリックなキャラクターだらけの賑やかな物語の中で展開されるのは、己の地位にしがみつこうとする権力者の姿であり、そしてその陰で薄れ、途切れていく親子の絆であります。

 本作で蜜姫が対峙することとなるのは、かの天一坊。大山師の悪党とされることが少なくない天一坊ですが、本作において描かれるのは、偉大な父の存在に振り回され、しかしその愛を求める孤独な青年の姿です。
 そして対する蜜姫は、一見これとは正反対のキャラではありますが、しかしやはり親に振り回され、自己をなかなか確立できないという点において、近しい存在と言えるでしょう。
(さらに言えば、自己の確立ができないという点において、蜜姫は冷飯連中と同質の存在と言えるわけですが…)

 もっとも、作中でそれがうまく描き出されているかといえば、それがちょっと微妙なのが残念なところ。
 例えば蜜姫とタマの関係性と、天一坊と赤川大膳らとのそれの対比など、もう少し突っ込んで描けば、さらに面白く、深い描写ができたのではと思うのですが…
 どうも面白い題材・キャラクターを詰め込みすぎて、ちょっと霞んだものがあったように思えるのですが、それはちょっと贅沢の言い過ぎでしょうか。

 さて、一つの冒険は終わったものの、まだまだ自己を――凛とした生き方を――確立できない蜜姫の旅はまだまだ続きます。
 本当につい先日登場したシリーズ第二弾「おたから蜜姫」では、蜜姫が「竹取物語」の謎に挑む様が描かれているとのこと(何故表紙が柴田ゆう先生でない点については強く抗議したいところですが)。もちろんこちらも読まずばなりますまい。


「おんみつ蜜姫」(米村圭伍 新潮文庫) Amazon

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