« 「夢源氏剣祭文」第一巻 些かも違和感なき漫画化 | トップページ | 「砂絵呪縛」 というよりも森尾重四郎という男について »

2007.12.12

「室町お伽草紙」 あまりにも山風すぎて

 若き信長・謙信・信玄に、妖女・玉藻が南蛮銃三百挺と引き替えに求めたもの――それは足利将軍家の美姫・香具耶の身だった。しかし姫を護るのは塚原卜伝に上泉伊勢守。さらに争奪戦に松永弾正まで加わって大混戦。この戦の行方で仕官先を決めようという少年・日吉丸が見たこの争いの行方は…

 山風の室町もの数ある中で、最もエンターテイメント度の高いのは、おそらく本作ではないでしょうか。文庫版の「青春!信長・謙信・信玄卍ともえ」という副題に示されているように、後に戦国乱世に覇を競った英雄たちが、若き日に出会い、一人の美姫を巡って激しい、しかしどこか間の抜けた戦いを繰り広げていたという室町-戦国意外史であります。

 時代伝奇、言い換えれば歴史パロディの名手である山風先生が得意とする中に、後に宿敵となる人物が、それよりもはるか以前に、意外な形で出会っていた、というパターンがありますが、本作はまさにそれ。
 一見、荒唐無稽も甚だしいようでいて、よくよく史実に照らしてみると決してあり得ない取り合わせではない、という山風伝奇一流の離れ業は、本作でも健在であります。

 それにしても本作の登場人物たちは、一人一人が長編の主役を張ることができるほど
の大物だらけ。上のあらすじに挙げた他にも、山本勘助に明智光秀、千利休に武田信虎と、よくもまあここまで…と感心するばかりです作者の作品の中では最晩年に属するものの一つでありながら、この旺盛なパロディセンスには驚かされるばかりです。

 このように実にエンターテイメントとして楽しい本作ですが、しかし、ひねくれた山風ファン的には、アレ? と思うところが。本作、あまりにも「山風すぎる」のです。
 キャラクター設定からその配置、ストーリー展開に至るまで、ああ、山風先生ならばこう書くだろうなと――いや、当たり前と言えば当たり前なのですが――こちらが思った通りのものといいますか…別に過去の作品の焼き直し、というつもりはありませんが、作品について、あれはこうなる、こうすればああなる、という一種のメソッド通りに作っているような、そんな印象を受けます。


 もちろん、それはあくまでもマニアの勝手な思いこみかもしれませんし、それと本作の完成度とは全く別の問題ではありますが、以前の作品と似通うのを嫌い、常に新鮮な驚きを提供することを心がけていた山風先生の作品としては、ちょっと喉ごしが良すぎるかなと、正直なところ感じた次第です。


「室町お伽草紙 青春!信長・謙信・信玄卍ともえ」(山田風太郎 新潮文庫) Amazon

|

« 「夢源氏剣祭文」第一巻 些かも違和感なき漫画化 | トップページ | 「砂絵呪縛」 というよりも森尾重四郎という男について »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/17345340

この記事へのトラックバック一覧です: 「室町お伽草紙」 あまりにも山風すぎて:

« 「夢源氏剣祭文」第一巻 些かも違和感なき漫画化 | トップページ | 「砂絵呪縛」 というよりも森尾重四郎という男について »