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2007.12.19

「七人の十兵衛」(その一) 政治的なる剣

 PHP文庫から先日発売された本書「七人の十兵衛」。その名の通り、柳生十兵衛を題材とした、七人の作家による七つの物語が収められたアンソロジーであります。
 時代小説の世界では相当にメジャーなキャラクターたる柳生十兵衛を扱っているためか、収録作品的にはかなり鉄板――正直なところ私にとってはほとんど既読の作品ばかりでした――ではありますが、それだけに内容には折り紙付き。どれも安心して読むことができる作品ばかりですが、通読するとなかなかに興味深い十兵衛像が浮かび上がってきます。
 以下、一編ごとに紹介していきましょう。


「柳生一族」(松本清張)
 トップバッターは、柳生十兵衛のみならず題名通り柳生一族の来歴を描いた作品。
 淡々とした筆致で描かれた柳生石舟斎以降の柳生一族の姿は、柳生ファン(?)にとってはお馴染みのエピソードが多いかと思いますが――しかし、片腕に止まらせた鷹を微動だにさせず襲撃者を撃退したという石舟斎のエピソードのアレンジの仕方は美事――ここで語られる石舟斎の姿には、その後の柳生家のあり方の淵源とも言えるものが見て取れます。

 戦国乱世に翻弄され、流浪を余儀なくされた石舟斎とその息子たち。彼らが求めた「安定」は、どれほどの剣の力があろうとも、得ることのできないものであります。そしてここから柳生家の特色である「政治的なる剣」が生まれたという本作の内容は、十分納得がいくものでしょう。

 そして本作で描かれる十兵衛の悩みは、そんな武術家と政治家というアンヴィバレントな存在の間に立たされた者ならではの悩みであり、彼の一生と最期は、柳生一族を象徴するものとすら感じられます。
 このアンソロジーの巻頭を飾るに相応しい作品でありましょう。


「秘し刀霞落し」(五味康祐)
 「政治的な剣」といえば、やはりこの方の作品が挙がるのは当然と言えるでしょう。柳生一族陰謀家論(?)の嚆矢ともいえる大作「柳生武芸帳」の外伝的空気の漂う本作で描かれるのは、やはり黒い宗矩と、その走狗として活動する十兵衛の姿であります。

 柳生流と同じ八間四面の道場を建てた同門の剣士を咎め立て、その秘太刀を見届けた上で――すなわちその技を盗んだ上で――殲滅しようという宗矩と十兵衛父子の姿は、殊に、ターゲットとなった道場に集うのが素朴な土地の土豪であり、その描写がまた微笑ましいだけに、より一層戦慄すべきものとして感じられます。

 もちろん、そのような異常にドライなドラマを展開する一方で、剣豪ものとしての本作が一級品であることは言うまでもない話であります。物語の序盤、旅の途上の茶屋で十兵衛が見せる一瞬の殺人剣の冴えもさることながら、ラストに展開される決闘シーンのスピード感は――剣戟のスピード感という点では、本作は剣豪小説中でも屈指の一編かと――さすがに余人の追随を許さないものがあります。

 短編ながらも、五味十兵衛、五味柳生一族の姿を切れ味鋭く描いた作品であります。


 明日に続きます(全三回予定)


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