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2007.12.28

「怪」 日常と地続きの怪異

 綱淵謙錠氏と言えば、タイトルが漢字一文字で統一された歴史小説群で知られる小説家ですが、その中には、怪談奇談に属する作品が幾つも含まれています。
 本書「怪」に収められた作品の幾つかは、まさにそのような作品。江戸時代の怪奇譚集「老媼茶話」に記された物語が、氏一流の冷静な筆致で新たな生命を与えられています。

 標題作「怪」は、怪談テーマのアンソロジー等にも収められている名品。豪傑(というには些か血腥すぎますが)の妖怪退治という内容自体は珍しいものではありませんが、怪異を、決して煽ることなく淡々と、しかし迫力ある文章で描き出した様はなかなかに魅力的です。

 しかしその怪異の描写以上に私が注目したいのは、その怪異と、それに対比されるべき日常のそれぞれの描写に、さして温度差が感じられないことです。
 妖怪変化が跋扈する怪異においても、人間が暮らす日常においても――標題作をはじめとする怪異譚では、二つの世界があたかも地続きのものとして描かれていると感じられます。

 こうした姿勢は、現代の我々からすれば、なるほど奇異に映るかもしれませんが、しかし、この物語の舞台となった時代の人々にとっては、むしろこちらの方が当たり前の話。彼らにとっては、怪異と日常は、決して交わらないものではなく、共に同じ「現実」の中に存在するものなのですから――
 そして、そのような作者の視点が、単なる怪異譚を超えた、優れた時代歴史小説としての味わいを、本作に与えているのでしょう。

 また、本書には、怪談奇談ばかりでなく、分類するとすれば一般の時代歴史小説に属する作品も多く収められています。しかし、怪異譚ばかりでなく、通常の作品も併録されている本書の姿は、そのまま、上記の地続きの怪異と日常のあり方に通じるものが感じられる、というのは牽強付会でしょうか。


 なお、本書に収録されている「冥――眠狂四郎冥府へ行く」は、副題にある通り、眠狂四郎の最期の戦いと、その後の冥府での姿を描いた、柴田錬三郎追悼記念のパロディ。
 水野忠邦が送り込んだ刺客団を単身殲滅させながらも、己も遂に斃れることとなった狂四郎が、冥府で出会った者たちとは――と、パロディと言いながらも、ファンであれば色々と唸らされる点も多い作品なのですが、狂四郎の盟友・梶山季之進や、師の佐藤春太郎なる人物が登場し、さらに閻魔の浄玻璃の鏡に映った者の名が柴田錬之丞というに至っては、作者の茶目っ気にただ苦笑させられるばかり。

 この怪作もまた、「怪」を冠した作品集に収められるにふさわしい…のかなあ。


「怪」(綱淵謙錠 中公文庫) Amazon

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コメント

綱淵先生好きなんだけども入手困難な作家の一人になってしまわれましたなぁ…

投稿: まさ影 | 2007.12.28 22:05

「怪」はまだ古本屋でよく見かけますが、それ以外は確かに厳しいですよね…残念

投稿: 三田主水 | 2007.12.29 14:28

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