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2007.12.10

「赤鴉~セキア」第一巻 赤鴉、江戸の外交問題を斬る

 「コミック乱」誌での連載開始時から注目してきた、かわのいちろう先生の「赤鴉」の単行本第一巻が遂に発売されました。
 江戸時代後期の長崎を舞台に、出島の異人と日本の女性との間に生まれた混血児たちで構成された隠密・赤鴉衆の活躍を描く伝奇アクションコミックであります。

 この第一巻で赤鴉衆の初陣として描かれるのは、江戸外交史上の一大事件であったフェートン号事件。オランダ船拿捕を目的として長崎に侵入したイギリス軍艦フェートン号が、狼藉の果てに水や食料を強請していったこの事件、当時の長崎奉行が切腹するほどの大事となりましたが――ちなみに作中で描かれているこの事件の模様(の一部)が、史実に忠実にもかかわらずあまりにも漫画的で驚きました。本当になんという事件だ――その陰で事件解決に活躍したのが赤鴉衆だった、という趣向。

 かわの先生の描く人物の線は、正直なところ、端正すぎて漫画としての面白味に欠ける部分も一部あるのですが、しかしこれがアクションシーンになると印象が一変! 紙の上の動かぬ絵から、素晴らしくダイナミックな動きが伝わってくるクオリティの高さには感心させられます。
 以前、「隠密同心」を漫画化していた時から注目していたのですが、そのアクション設計のセンスは健在です。
(特に赤鴉衆の一人、そばかすがチャーミングな鋼手の茜さんの無手格闘シーンは必見)

 しかし、本作の魅力は、もちろんそうしたアクションだけに留まりません。現実に確かに存在したであろうにもかかわらず、これまでフィクションの世界においてすら採り上げられることの少なかった長崎の混血児たち…異国人の血を引くという理由だけで差別され続けてきた彼らの存在を、その根本である歪んだ外交関係と絡めて浮かび上がらせてみせた基本設定、ストーリー構成こそが本作の最大の魅力です。

 殊に、本作の主人公である青年・紅郎の設定が見事。
 赤鴉衆最強の実力を持ちながらも、少年期の差別の記憶から、己の職責・使命に、いやこの国の存在にすら虚無的な視線を向けるという彼の描写は、まさに本作ならではのものであります。そしてその彼がクライマックスに立ち上がる理由がまた、単なるヒロイズムを超えた重く熱いもので、この辺りのドラマの盛り上げにはまったく唸らされました。
 ここで彼が対決する悪役がステロタイプの「悪い外国人」なのは残念ですが、それを補って余りあるものがあると言えるでしょう。

 題材の妙に、卓越したアクション描写とストーリーテリングが見事に絡み合った本作。江戸時代の外交問題というコロンブスの卵的題材を如何に料理してくれるのか、今後の展開も楽しみです。


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