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2008.01.31

「乱世疾走 禁中御庭者綺譚」 戦場を駆け抜ける青春群像

 戦国乱世を憂える正親町天皇の意を叶えるため、立入宗継と山科言継は、世の動きを探る「禁中御庭者」創設を決意する。丸目蔵人、柳生凛、大角、香阿弥、西門…五人の若者は、帝の目となり耳となって、頭角を現し始めた織田信長を動向を追って乱世を駆ける。

 織田信長と言えば、今なお歴史小説・時代小説界の人気者。彼が登場する作品は、それこそ無数に存在しますが、本作が、その中でもユニークなスタイルを取った作品であることは間違いないでしょう。
 本作で描かれる信長の姿は、直接に、あるいは周囲の武将の視点から描かれるのではなく、それまで信長とは全く接点のなかった五人の若者たちの目を通じて描かれるのですから…

 そしてこの五人の顔ぶれがまた面白い。
 剣聖・上泉伊勢守の秘蔵っ子であり一本気な九州男児・丸目蔵人。
 柳生宗厳の妹であり、忍術の達人でもある柳生凛。
 宝蔵院胤栄の弟子の豪快な荒法師・大角。
 土御門家出身の陰陽師兼香道師の美青年・香阿弥。
 お調子者の女好きで堺商人の跡取りの西門。

 この五人の若者に共通するのは、それぞれ豊かな才能と個性を持ちながらも、いまだ世に出る機会を得ず、一種のモラトリアムともいうべき境遇にあったこと。
 それが一つの使命で結ばれ、そして彼らとは対照的に、乱世のトップランナーとして活躍する信長をターゲットとすることによりいかに変わっていくか――それが本作の大きな柱であり、得難い魅力となっています。

 言ってみれば、本作は信長という存在の本質を見極めるという困難な目的に一丸となって挑む特殊チームものであると同時に、それまで互いの接点すらなかった五人の若者が、時にぶつかりあい、時に助け合いながら成長していく様が瑞々しく描かれた青春もの。(ちなみに、特殊チームもの+青春ものという視点からすると、本書の解説で末國善巳氏がスーパー戦隊シリーズを引き合いに出しているのも故なしとは言えません)
 信長という巨大な存在を描くと同時に、それを遠景にして、等身大の青春群像を――それもエンターテイメント味濃厚に――描いて見せた作者の手腕には脱帽するとともに、今まで本作を見逃していた自分の不明を恥じた次第です。

 そんな快作である本作の数少ない欠点の中で最大のものは、物語が途上で終了となっていることでしょう。
 時期的には、信長が朝倉義景と浅井長政の挟撃をされて逃れるまでが本作の舞台となっており、正直なところ、中途半端なところで終わったという印象(という言い方が悪ければ「第一巻完」という印象)があります。

 まだまだ信長の躍進も五人の青春も道半ば――乱世を駆ける彼らのその後の姿は、必ず描かれるべきものと強く感じているところです。


「乱世疾走 禁中御庭者綺譚」(海道龍一朗 新潮文庫) Amazon

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