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2008.01.14

「らんまん剣士」(「鷹天皇飄々剣」) 剣豪天皇幕末をゆく

 奥吉野で長閑に暮らす南朝第十九代・鷹天皇。その前に現れたのは、劣勢に立たされた幕府の切り札として、彼を奉戴しようとする山岡鉄舟だった。剣の道を志す鷹は、剣法修行のため江戸行きを承知するが、江戸での窮屈な暮らしに飽きた彼は天位を放棄し、幼なじみの霞、忠僕・豹八と共に出奔してしまう。市井で剣の修行に励もうとする鷹だが、彼の周囲に、幕府からの追っ手と、京の帝を奉じる西国雄藩の刺客が迫るのだった。

 南朝といえば、室町を舞台とした作品にはしばしば登場するものの、それ以外の時代に登場するのは珍しい存在。その例外の一つが、本作(別題「鷹天皇飄々剣」)です。
 物語のスタイル的には、隔絶した環境で育った無垢な貴人が外の世界に出て、周囲とのギャップの中で騒動を巻き起こし、また還っていくというパターンであり、それ自体は珍しいものではありませんが、本作の工夫は幕末を舞台に、南朝の末裔を持ち出してきた点でしょう。
 鳥羽・伏見の戦いの錦の御旗の例にもあるように、歴史上、幕末ほど天皇の存在が「利用」された時代はないのではないかと思うのですが、さてもし幕府側にも天皇が、それも正統とされる南朝直系の天皇がいたらどうなるか、というのは実に興味深いIFの世界であります。

 しかし真に本作が描こうとしているのは、それよりもさらに踏み込んだ世界。
 鷹天皇を、天位を望まない者として描くことにより、本作は、近代の天皇制と、それを「利用」しようとする者たちにシニカルな視線を向けており――そしてそれは、近代という時代のあり方を問いかける試みに繋がっていきます。

 もっとも、その天皇を剣法マニアに設定することで、物語に無理なくチャンバラシーンを交えることを可能としているのはさすがの一言。なるほど、天皇とチャンバラという、この二つの要素を両立させるに幕末という舞台はうってつけという他なく、陣出先生の慧眼には感心いたします。

 そして、この剣のサイドの物語が、一人の青年の成長譚としてもきちんと成立しているのにも感心させられます。
 ある意味個人主義の極とも言える剣の道を、天皇制や国家といったマクロな存在と対置することにより、その双方が際だつのであり――そしてその二つの道が交わり、一つの答えが出される結末には、静かな感動があります。


 …と、褒めすぎの感もありますが、もちろん大衆文学の路頭を爆走する陣出作品だけあって、バカネタも多数であります。
 特に物語の中心となる鷹・霞・豹八のトリオは、全員ボケのみでツッコミがいないという有様で、普通に動き回るだけでギャグにしかならないという恐ろしい状態。
 その他にもおいらん剣法(実は凄くシリアスなエピソードなんですが…)や女新選組など、字面だけで脱力できる有様で、ああ、やっぱり陣出先生は陣出先生なんだなあと、ちょっと安心した次第です。


「らんまん剣士」(陣出達朗 春陽文庫) Amazon

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コメント

KBS京都「中嶋貞夫の邦画指定席」で「鷹天皇飄々剣」やってくんないかなぁ。
http://www.kbs-kyoto.co.jp/tv/mm/cat148/
先週は市川雷蔵の「月姫系図」やってた。

投稿: まさ影 | 2008.01.15 00:08

ええええ、京都いいですねえ>月姫系図

映画版の本作もいつか見てみたいものですね。

投稿: 三田主水 | 2008.01.16 23:43

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