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2008.01.24

「あやかし同心 死霊狩り」 帰ってきた大江戸怪奇大作戦

 ある雨の晩に起きた怪事件――大工が何者かに襲われた現場に落ちていたのは、大工が木槌を振り回した時に落ちたと思しい腕、それも死後久しい死人の腕だった。それを皮切りにしたように、江戸の町に歩く死人たちが現れ、さらに奇怪な殺人事件が続発する。事件の謎を追う南町隠密廻り同心・香月源四郎とその義兄・志垣隆之介が見たものとは…

 発売するや一部のホラーファン・時代小説ファンに絶賛された加納一朗先生の隠れた名作「あやかし同心事件帖」が帰ってきました!
 その名も「あやかし同心 死霊狩り」。江戸の町に吸血鬼を跳梁させてみせた前作に続き、本作で暴れ回るのは…オールドSFファンであれば副題から一目瞭然ですが、とにかく今回も期待通りの怪奇時代小説の名品であります。

 死人が歩き回り、生者を殺す怪事件の背後に隠された真実とは何か…怪奇小説としては正直なところ珍しい題材ではなく、またラストを除けば比較的地味な展開ではあるのですが、しかし、作者の円熟した文章は、超自然の怪の跳梁を生々しく描き出し、陳腐さなどは微塵も感じさせぬ恐ろしくも興趣に富んだ作品として本作を成立させています。

 そして、そんな作者の筆は、一方で怪異に挑む主人公たちの捜査活動を、じっくりと、地に足の着いた形で淡々と描きます。
 その描写は前作同様、通常の時代小説、いわゆる同心もののそれと些かも変わることはなく――それが本作を地味に感じさせる一因かとも感じますが――彼らが対決する時代小説離れした怪魔とは著しいコントラストをなすもの。しかしその両極端な要素がお互いを高めあって、非現実的な事件の中にあっても、その背後にある人間の心というものの姿を浮き彫りにしています。

 そう、どれほど常識では測り知れぬ怪奇な事件が起きようとも…その事件を引き起こすのは、決して我々とは相容れぬ異世界の怪魔ではなく、我々と同じ人間であり、彼らが持つ心、あるいは業と言うべきものであります。
 先に述べたとおり、本作の題材は、時代小説の分野においてもさほど珍しいものでもないのですが、しかしそれでも本作が面白いのは、表面に現れた超自然的な怪異だけでなく、その裏側に隠された普遍的な人間の心をもきちんと描い出しているからなのでしょう。

 怪奇に立ち向かう人々の姿を通して、人間の心を、業を描き出す――本シリーズを時代劇版「怪奇大作戦」と呼ぶのは、牽強付会が過ぎるでしょうか。

 いずれにせよ、あやかし同心の三度の登場を、今から心より願っている次第です。


 …しかし「志垣」青年がフェンシング剣法を操るのに大喜びした読者は、さすがにほとんどいないだろうなあ。


「あやかし同心 死霊狩り」(加納一朗 ワンツーマガジン社ワンツー時代小説文庫) Amazon

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