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2008.01.06

「討たせ屋喜兵衛 黎明の剣」 武士の道から人の道へ

 遂に判明した真の敵・戸川陣内。かつて喜兵衛の、伊織の運命を狂わせた奸商・伊勢屋と結び、幕府をも揺るがす大陰謀を進める陣内は、同時に喜兵衛の相棒である千歳太夫の父の仇でもあった。奥州三善藩を足がかりに天下を狙う悪人たちとの全ての因縁に決着を着けるため、喜兵衛らは三善藩へと向かう。

 全五巻の「討たせ屋喜兵衛」シリーズも遂にラスト。これまで幾多の仇討ちに関わってきた喜兵衛たちが、遂に自分たち自身の仇討ちに挑むことになります。

 喜兵衛と共に討たせ屋を務める花魁・千歳の仇が、喜兵衛らにとっても不倶戴天の敵であった、というのは些か出来過ぎの感もありますが、しかしクライマックスの怒濤の活劇の連続の前には、そんなことは些末なことに思えます。
(これまでシリーズで登場した四つの秘剣――仇討ちの中で無念の涙を呑んだ人々の想いの結晶――が全て登場というするという展開は、ベタながらやはり燃えます)

 しかし本作の素晴らしい点は、単に燃える大活劇であるのに留まらず、これまでシリーズの中で積み上げられてきた、武士の道と人の道、二つの道を如何に歩んでいくか、というテーマが、見事に収束していくことにあります。
 陰謀に巻き込まれて武士の世界からドロップアウトした喜兵衛が営むこととなった討たせ屋は、仇討ちという、武士としての義務あるいは誉れと呼ばれつつも、人の生きざまとしてはある意味極限状態にある人々を救う稼業。言い換えれば、武士の道と人の道の交差点に立って、そこに迷う人に、往くべき道を照らし出す役割であります。
 もちろん、そんな喜兵衛自身もまた、迷い人の一人であるのですが、しかし本作において、遂に彼は自分自身の道を選び、掴むことになります。そして、それまで歩まされた道が過酷であっただけに――その新しい道は、何よりも尊く素晴らしいものと見えます。

 そしてその様が喜兵衛以上に明確に示されていたのは、彼を仇と付け狙っていた伊織でしょう。常識知らずの女武芸者であった彼女が本作で見せた変化は、一見唐突に見えますが、しかしその芽は彼女自身がこれまでの戦いと、周囲の人々との関わりの中で育ててきたものであることが、シリーズ全てを読み終わってみれば理解できます。
 ヒロインとしてはあまりにエキセントリックなキャラクター造型は、このためだったのか! と、冷静に考えてみれば当たり前の話ではありますが、大いに感心いたしました(作者が作者だけに、好きでやっているのかと思いましたよ…)

 独立した作品としてみると、意味ありげに登場した新キャラがあっという間にフェードアウトしたりと残念な点もあるのですが、まずは全五巻の大団円、大いに楽しませていただきました。


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