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2008.01.27

「妖異の棲む城 大和筒井党異聞」 真の妖異は何処に

 英邁と讃えられながらも、気鬱に犯され、出家遁世を望むようになった筒井順昭。彼の身を案じる正室・大方殿は、ある幻術師の手を借りて影武者を立てんとし、一見この奇策は成功したかに見えたが…大方殿がある変貌を遂げたことから、事態は思わぬ展開を見せることとなる。

 筒井氏といえば、やはり一番に採り上げられるのは順慶で、順昭が小説の題材とされるのはかなり珍しいようにも思いますが、この順昭は、その死にあたって木阿弥なる盲僧を影武者に立て、これが「元の木阿弥」の由来となったという、面白い逸話もある人物。
 本作においてもこのエピソードは実に面白い形で換骨奪胎されておりますが、まずは題材選びの時点で、なかなかにユニークな視点があると言えるでしょう。

 さて、その順昭が気鬱から叡山に上ることを望み(これもまた、史実上のエピソードを元にしている模様)、それに正室の大方殿が健気にも応えようとしたことが招いた思わぬ惨劇を描く本作。
 大方殿の善意が、いや彼女自身が変貌していくその原因・要因は、なるほど本作の極めて特異な舞台設定ゆえとも言えますが、しかし、その妙に生々しい描写も相まって、現代の我々にも大方殿の心情は――あまりしたくありませんが――理解できるやに思えます。
 そしてまた、変転する事態の中で己の役どころを見失い、懊悩の果てに消えていく幻術師の姿からは、奇怪な術が呼び起こすものも及びもつかぬような、真に「妖異」と呼べるもの――言うなれば人間の業――の存在が、くっきりと浮かび上がります。

 しかし…本作においては、その題材を十全に活かし切れていないうらみがあるというのが正直なところ。
 地の文があまりにも饒舌過ぎることが読者の感情移入を拒み、そして構成の拙さが物語から意外性を奪い――非常に厳しい表現で申し訳ありませんが、この題材であれば、もっとうまい活かしようがあったのではないかと感じさせられます。

 真の妖異がどこにあるのか、それが理に落ちる形で示された後に…というラストが実に面白いだけに、なおさら勿体無く感じられたことです。


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コメント

こんばんは、はじめまして。
先日はTB,ありがとうございました!
ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません…。
実は以前からこちらには何度もお邪魔しておりました。
まさかTBを頂けるとは、光栄です。
しかしお馬鹿な感想文ですいません…(恥)。

本題ですが、この作品、冒頭がなかなか面白いので
引き込まれますが、いざ読み進めてみると…厳しいのですよね。
大方殿と幻術師の心情とアレなシーンの描写が多く、
期待させてくれる設定のわりには
拍子抜けする真相にガッカリしてしまいました。
ラストのオチは…良いんですけどね。
本当に、勿体無いです。

長々とコメント失礼致しました。

投稿: まるひげ | 2008.01.29 02:43

まるひげ様、ようこそお越し下さいました。
こちらこそ、TBさせていただいて先にご挨拶にうかがうべきところ、失礼いたしました。
うちのブログもご覧いただいているとのこと、どうもありがとうございます。
まるひげ様のところも、私の方と趣味が重なる部分が多いので楽しく拝見させていただきました。今後ともよろしくお願いします。

しかし本作、まるっきりダメというわけでは全くなく、見るべきところも色々とあるのですが、やっぱり真相がちょっと…ですね(というかほとんど隠していなかったような気がします)
いやはや勿体ないです。

投稿: 三田主水 | 2008.01.29 23:38

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