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2008.02.21

「風の陰陽師 1 きつね童子」 陰陽併せ持つ登場人物たちの魅力

 幼くして父を失った安倍晴明は、実は母が信太の森の狐であったと知り、母を慕って京を飛び出す。様々な冒険の果てに陰陽の術を会得して京に戻り、正式に陰陽寮で学び始めた晴明は、ある日、主の前での術比べを命じられる。その相手は旅の最中で知り合った野心家の陰陽師・蘆屋道満だった…

 さすがに一頃に比べるとずいぶん作品点数は減ってきましたが、やはり安倍晴明は今でも平安ものにおいて人気者であることは間違いありません。この「風の陰陽師」シリーズの第一巻「きつね童子」もその一つ。
 レーベルこそ児童文学ではありますが、ストーリーのひねりといい人物描写といい、子供だけでなく、(晴明ファンの)大人が読んでも十分に楽しめる作品となっています。

 この第一巻で描かれるのは、晴明の生い立ちから、彼が陰陽師として初の「公的な」活躍をみせるまでのエピソード。
 晴明の生まれといえば、かの「信太狐」の物語をご存じの方も多いかと思いますが、本作でもタイトルに表れている通り、晴明は人間の父と狐の母の間に生まれたハーフという設定となっています。

 その他にも、本作の題材となっているのは今昔物語集などに記された、晴明の史実、あるいは伝説。賀茂忠行の夜行に随行した際に百鬼夜行を目撃した話や、帝の前で行われた道満との当てもの勝負などは、いずれも「晴明もの」には定番のエピソードであり、いわばお約束的なものと言えます。

 しかし、本作がそうしたエピソードのパッチワークで構成された、安直な内容の作品かと言えば、それは断じて否、であります。
 個々のエピソードをつなぐもの、そして個々のエピソードの中に含まれているものは、本作独自の、本作ならではの視点とアレンジであり、その換骨奪胎ぶりには、晴明ものはそれなりに読んでいるつもりの私にとっても、なかなか新鮮に感じられました(特に、晴明の最初の師匠となる人物が、智徳法師というのに吃驚)。

 そしてそれだけではなく、本作をして子供向け小説の枠を越えた読み応えの作品としているのは、登場人物が皆、単なる書き割りではなく、それぞれに複雑な内面を抱えた存在としてきちんと描いていることでしょう。
 己に秘められた力に気付かず、己の臆病さと孤独に悩む晴明。袴垂保輔を超える盗賊王となることで己の存在を示そうとする晴明の親友・多城丸。晴明の兄弟子でありながら(!)私利私欲のために術を使い、しかしどこか憎めぬ道満…
 そんな、まさに陰陽併せ持つ登場人物たちの中でも特に印象に残るのは、晴明の育ての親であり第二の師である賀茂忠行のキャラクターでしょう。晴明ものの中では、温厚でものわかりの良い人物として描かれることの多いように思われる忠行ですが、本作においては、そうした側面を持ちつつも、その一方で友を裏切り権門にすり寄ることも辞さない――もちろんそれにはそれなりの理由はあるのですが――出世主義者として描かれており、それがまた奇妙なリアリティを感じさせています。

 この辺りの捻りや書き込みといったものは、やはり作者の三田村信行氏のベテランならではの筆の冴えと言うべきでしょうか。
 本作のラストでは、晴明も、多城丸も、道満も、皆それぞれに自分の目的に向けて新たな道を歩み始めますが、しかしその道は決して平坦なものではないことが想像できます。晴明の、登場人物たちの行く手に待つものに思いを馳せつつ、既に刊行されている第二巻「ねむり姫」を早く読もうと思っている次第です。


「風の陰陽師 1 きつね童子」(三田村信行 ポプラ社) Amazon

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