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2008.02.04

「マーベラス・ツインズ 1 謎の宝の地図」 驕児、世に出る

 武侠小説ファン、古龍ファンの間で最近(たぶん)話題だったのは、何と言っても「絶代双驕」の邦訳でしょう。
 同じ武侠小説家でも、全作品が邦訳されている金庸に比べて邦訳に恵まれない古龍の代表作の一つが遂に邦訳されるのですから――ライトノベル系レーベルから、「マーベラス・ツインズ」というタイトルで。

 いや、いかに鬼面人を驚かすを地で行く古龍作品とて、まさかこういうベクトルで驚かされるとは思いませんでしたが、しかし、完全にライトノベルなタイトルとイラストと裏腹に、内容は――訳文は――きっちりと武侠小説、まぎれもない古龍作品で、安心いたしました。
(ま、「ハンサム・シビリング」も「プライド」もどうかと思いますしねえ)

 悪徳の地・崑崙山の悪人谷で、全土で恐れられた悪人たち、その名も十大悪人に育てられたこの少年・小魚児。見かけは無垢な美少年ながら、やることなすこと破天荒で、口から先に生まれてきたようなペテンとハッタリの天才児で、悪党の上前をはねるこの大悪党が、本作の主人公であります。

 古龍の主人公は――主人公に限らず、脇役の一人一人までもがそうですが――とにかく強烈な個性の持ち主ですが、その中でもこの小魚児は相当のもの。どちらかというとオトナのイメージが強い古龍ヒーローの中でも年少とあって、かなり毛色の変わった主人公と感じます。
 もちろん、いかに年少で、そして大悪党だと言っても、そこは男の中の男を描けば右に出る者のいない古龍。どれほど無茶苦茶なことをやらかそうとも、その中に一本筋が通っている、心意気が感じられるという点では、やはり彼も古龍主人公と言えるのでしょう。

 さてこの第一巻では、育ちの地・悪人谷を飛び出してきた小魚児が、旅を続ける中で伝説の武術秘伝書の在処を示した宝の地図を巡る争奪戦に巻き込まれる様が描かれます。
 その様たるや、相変わらずの古龍節。もう超古龍。次から次へととんでもない連中が登場しては、その大半が次の瞬間に新キャラにブッ殺される一方で、ミステリ色の強い奇ッ怪な事件が発生して、その謎に主人公が挑むという古龍節は相変わらずであります。

 どちらかと言えば優等生的な金庸作品に比べれば、あまりにクセが強い古龍作品は、慣れない人はきついかもしれませんが、一度ハマってしまえばこれほど楽しいものはない。特に本作は次から次へと襲いかかる(九分九厘自業自得ですが)難局に、武芸の腕はイマイチな小魚児が、舌先三寸でいかに立ち向かうかという興味もあり、タイトルの「ツインズ」の片割れである、こちらは君子然とした美少年・花無缺が登場するラストまで、一気に楽しく読ませていただきました。

 読む前は些か心配であった訳文の方もまずもって問題はなし。
 調べてみれば翻訳者の川合章子氏は、ご自分のサイトでオリジナルの武侠小説を発表されているほどの相当にお好きな方のようですので、そういった意味では問題はないかと思いますし、むしろ大いに期待したいと思います。

 原書にはあった悪人谷のシーンがオミットされているという話もあり、不安がないわけではないですが、しかし滑り出しとしては文句なし。武侠小説ファン、伝奇小説ファンであれば、タイトルやイラストに怖気をふるわず、まずは読んでみていただきたい作品です。


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