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2008.02.29

「シグルイ」第10巻 正気と狂気の行き来に

 いつまで続く(血泥の)泥濘ぞ、という印象の牛鬼牛股師範と伊良子の決戦ですが、遂に決着。さてこれで…と思いきや、とんでもない再起動がかかっての第十巻です。

 第九巻で、まさしく牛鬼と化したような暴れぶりで周囲に血と肉をばらまいた牛股。おそらくは時代漫画史上でも屈指のスプラッターバトル、白黒二色刷りであることを感謝したくなる惨状ですが、これが無明逆流れ封じであるのは言うまでもない話であります。
 ここで牛股の恐ろしいところは、どう考えても乱心したとしか思えぬ姿を見せながらも、その実、この逆流れ封じのように、極めて冷静に行動している点でしょう(何せ、乱心してみせたのすら一つの計算の上なのですから…)
 特に個人的に印象に残ったのは、片腕を失い地に伏した藤木を、完全に正気の眼差しで牛股が見やる場面。正気と狂気の行き来の描写の巧みさとともに、その両者が薄皮一枚で隣り合わせる様を浮かび上がらせる様に感心しました。

 そして、遂に敗れ去った牛股が束の間見たもの――かつてあり得たかもしれない、しかし自らの手で摘み取ってしまった未来の姿というまぼろしときたら…直接的な残酷さのみならず、残酷にはこういう形もあるものかと唸りました。

 …とか思っていたら牛鬼が今度はフランケンシュタインモンスターになっちゃうから困っちゃうんですが、まあこれはこれで。

 さて、これで藤木も伊良子も、ようやく物語冒頭の姿になったわけですが、この後、駿河城御前試合第一番に至るまでに何が待ち受けていることか。
 作者はかつて(本作連載開始の遙か以前に)「ハンデがある方が強いんだ」というような名言を残していますが、二人とも肉体はおろか、精神的にも社会的にもハンデだらけの存在。果たしてどちらが強いのか――最後の惨劇の幕が開くまで、あとわずかであります。


 …え、がま剣法?


「シグルイ」第10巻(山口貴由&南條範夫 秋田書店チャンピオンREDコミックス) Amazon

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 今月の「シグルイ」
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 「シグルイ」第6巻と今月の「シグルイ」 魔神遂に薨ずるも…
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 「シグルイ」第八巻 剣戟の醍醐味ここにあり
 「シグルイ」第九巻 区切りの地獄絵図

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2008.02.28

「まぼろし城」 稚気溢れるビジュアルの楽しさ

 日本アルプス山中に築かれた怪城塞、それは奇怪な髑髏面に黒装束の怪人団・まぼろし武士のまぼろし城だった。日本征服のため、木曾義仲の末裔が守る「神州山絵図」を求めるまぼろし武士の前に単身立ち塞がった快男児…若き公儀隠密・木暮月之介とまぼろし城主の死闘の行方は!?

 黒装束に骸骨の絵を書いて骸骨が動いているように見せたり、そこまでいかなくとも悪人たちが髑髏面をつけているというのは、数十年前の少年小説などでは定番ネタだったように思います。
 先日紹介した鞍馬天狗の「山嶽党奇談」でも山嶽党がこれをやっていたのですが、それで思い出したのは、同じ「少年倶楽部」誌に連載された「まぼろし城」。公儀隠密・木暮月之介を主人公とした冒険活劇シリーズの一編ですが、これ、私結構好きなのです。

 何と言っても、日本アルプス山中に髑髏面の怪人たちが徳川幕府も手を出せないような城塞を築いているという設定が素晴らしい。しかもその名がまぼろし武士にまぼろし城! もうそれだけでお腹いっぱいですが、その頭首で奇怪な幻術を操るまぼろし城主の正体が実は○○○ときては、パーフェクトと言わざるを得ません。

 もちろん、現代の人間からすると――いやたぶん当時の大人にしても――まさに鬼面人を驚かすという体のものではありますが、しかし、その稚気溢れる突き抜けたセンスが、色々とひねくれた人間にとっては、直球ど真ん中のエンターテイメントとして、かえって新鮮に映るのです。

 何よりも、峻厳たる山中に潜む髑髏面の群れと、それに立ち向かう若武者、というビジュアルが、ベタながら心躍るではないですか。(というか、ノリ的には今日日の伝奇時代アクションゲームとあまり変わらないような…)
 後に桑田次郎氏により本作が漫画化されているのも、このビジュアルの楽しさによるものではないかな、と思います

 高垣眸先生の時代ものとしては、やはり「怪傑黒頭巾」の方が代表作として挙げられるのだろうとは思いますが、私としては、この「まぼろし城」(と一連の木暮月之介もの)の方がより気に入っているところです。


「まぼろし城」(高垣眸 国書刊行会ほか) Amazon

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2008.02.27

三月の時代伝奇アイテム発売スケジュール(ちょっと修正)

 一月二月はまだ笑っていられましたが、三月の話となると、ついさっき年が明けたばかりなのに! と青ざめてしまう今日このごろ。楽しみなのは春の花の開花と時代伝奇アイテムの発売ばかりでございます(寂しい人生)。
 というわけで三月の時代伝奇アイテム発売スケジュールを更新いたしました。

 相変わらず文庫に限ってみれば小説は不作の一言、下旬に発売の「マーベラス・ツインズ」第二巻の発売を除けば、ほぼ全滅に近い状況であります(あ、同じく下旬に戯曲「真田風雲録」が再刊されるのでした)。
 とりあえず、「KENZAN!」vol5掲載の「柳生大作戦」(結局これが正式名称になったのか…)と、伝奇なのかそうでないのか今ひとつわからない「海島の蹄」というダブル荒山作品に期待するのが良さそうです。…良さそう?

 それに対して、相当充実しているのが漫画。
初登場の漫画版「巷説百物語」(もちろんコミック乱増刊で連載中の方)をはじめ、続巻の方でも、「闇鍵師」「ガゴゼ」「BRAVE10」そして「怪異いかさま博覧亭」とバラエティに富んだ作品が発売されます。
 また、復刊ものとしては、竹本泉版の「あんみつ姫」が登場。さらになぜか(?)リイド社から石川賢版の「柳生十兵衛死す」が刊行開始されるので、未読の方はぜひ。

 そしてDVDの方は、「シグルイ」「大江戸ロケット」と続巻もののほか、以前上下巻で発売されたものを一つにまとめた「快傑ライオン丸 カスタム・コンポジット・ボックス」が発売されます。…以前必死こいてお金を捻出して買った俺の立場はorz
 またゲームは、最近PS3に突っ込みすぎた…ためかは知りませんが400人リストラが報道されたセガがそのPS3で発表する「龍が如く見参!」がいよいよ登場。ドル箱シリーズが時代劇に舞台を移して、市場の反応は如何に? と大いに気になる一本です。
 まあ私はPS3は持ってないので、ニンテンドーDSの「影之伝説-THE LEGEND OF KAGE2-」「江戸文化歴史検定DS」を買いますよ。


 最後に時代でも伝奇でもないですが、最近マニア的には足を向けて寝られない東京創元社からは、「幽霊狩人カーナッキの事件簿」と「風前の灯! 冥王星ドーム都市」が発売されます。
 カーナッキの久々の登場も嬉しいは嬉しいですが、それよりも何よりも、時代伝奇オタ以前にスペオペ既知外としては、単行本化されてなかった野田大元帥のキャプテン・フューチャーが発売されるのがもう…(もちろんCFハンドブックは持ってるけどそれでもやっぱり嬉しい)

 というわけで、最後にグチャグチャになってしまいましたが、やっぱり三月楽しみですね(棒)

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2008.02.26

「Y十M 柳生忍法帖」 おゆら様肉迫の巻

 ラストまで残すところあと数回…のはずながら、あまりそんな実感がわかない「Y十M 柳生忍法帖」。その原因は――

 その原因は、やっぱりおゆら様の大暴れでありましょう。
 囚われの身となったほりにょたちの処刑まであと三日、十兵衛と沢庵もまた囚われて、という絶体絶命の危機でありながら、辺りはばからず十兵衛に肉弾戦を仕掛ける(性的な意味で)おゆら様…

 さしもの剣豪、さしもの善知識といえども、己に密着して、あるいは目の前でおゆら様のあられもない姿を見せつけられては、道心が蕩かされることはありえないにしても、純粋に気が散ります。
 しかもおゆら様、ケダモノになっている割には知恵が回り、自分の想いとほりにょの身を天秤にかけて十兵衛を脅したりすかしたり…いやはや十兵衛先生、本作ではとことん女難の相があるようです。

 しかしながら――十兵衛たちを縛るおゆら様の存在が、同時に、十兵衛たちを守る盾ともなっているのは皮肉な話。なんとなれば、おゆら様の腹には、明成の子がいるのですから…
 なるほど、「Y十M」においては正室との間の子が顔を見せていましたが、銅伯の手にかかればいないも同然。それよりも、おゆらの子の後に、よその女との間に子が産まれる方がよほど問題なわけで、この辺りはいかにも山風らしい実にややこしいシチュエーションではあります。

 そんなこんなしているうちに、運命の日はもう明日という状況に。なんかおゆら様が存在感をアッピールしまくっただけのような気もしますが(素で焦る十兵衛もすてき)さてこの状況から如何にして脱出するのか?
 何だかおゆら様を応援したい気持ちになってきましたよ…


 ちなみに原作読者としては、今回ラストのおゆら様の台詞に、と胸を衝かれた思いが。原作でもあった台詞なんですが。

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2008.02.25

魔人ハンターミツルギ 第05話「地震怪獣出現!」

 地底を江戸城に向けて掘り進み、群発地震を起こす地震怪獣グラグラン。が、岩盤に阻まれたグラグランのため、サソリは地震学者の良元から情報を得ようとする。グラグランの糸に一度は敗れたミツルギ三兄弟だが、窮地を脱してミツルギに合身、グラグランを粉砕するのだった。

○群発地震で町がパニックになる中、一人避難そっちのけで「もっと揺れろ!」とか叫ぶ良元。最初っから最後までこの調子です。

○今回から戦闘員のリーダーが他とは違う昔懐かしのホラーマスク(フランケンとかゾンビとかのゴム製マスクあったでしょ?)に。おかげで即身仏-ホラーマスク-スケキヨミイラと特撮史上最悪のヒエラルキーここに誕生。

○襲われていた良元一行を助ける三兄弟。忍法モグラ返しで地面に潜って、後ろからサソリ忍者たちを不意打ちだ。

○そこにグラグラン登場。「地震だ…地震だ…」と喜ぶ良元を助けようとした三兄弟は、グラグランの糸で絡め取られて行動不能に…

○弟子の子供を人質に取られて資料を要求される良元。しかし逆に怪獣の正体を教えてくれとせがむじじい。これはひどい

○堅い岩盤と地下水に阻まれて隅田川を越えられない珍怪獣グラグラン。魔人様は良元の研究から、地盤の軟らかい場所を探ろうとしていたのでした。しかし魔人様、前回「水陸両用の妖怪を徹底的に生み出しておいたのよ!」といばっていたくせに…

○いちかばちか、自ら崖から転がり落ちて忍法「石清水」の爆発力(?)で糸から脱する三兄弟。しかし真剣によくわからん忍法です。

○敵わぬまでも…と悲壮な覚悟を決めた次の瞬間に、網に捕らわれる半蔵と御庭番たち…折りよく現れた三兄弟に救われますが、二手に分かれて行動することとなった次の瞬間、またサソリ軍団に襲われて…ダメだこりゃ

○サソリ軍団お得意の火矢に、忍法抜け殻の術で対抗する三兄弟。しかし、完全にヒットしてから(悲鳴まで上げてから)術を使っているんですが…それで間に合うのか

○子供と共に解放されながらも「地震じゃ地震じゃ!」と大喜びのじじい。調子に乗って至近距離で測定にふけった末にグラグランの攻撃に巻き込まれて遂に死亡。

○彗星は酷すぎる合成で岩の下敷きに。銀河は稲妻の術で雷を落として岩を爆破しますが…いや、どう見ても岩の中から火ィ吹いてるよ!

○何だかんだでミツルギ合身。グラグランの攻撃で地面に埋められながらも、真下から飛び出して形勢逆転。奥の手のロケットパンチも難なくかわして、火炎弾連打であっさり勝利するのでした。


 冷静に考えると第三話と同じパターンの今回。しかし、学者バカというのも生ぬるい良元の暴走ぶりがもの凄くて印象は全く異なります(というかじじいの暴走しか印象に残らない)。
 悪人ではないが、自分の知識欲のために周囲の迷惑を顧みないキャラというのは、しかし、この手の番組では意外と珍しいかもしれません。こういうのがあるからこの番組は目が離せないのです。


<今回の怪獣>
グラグラン
 上半身は角を生やした骸骨、下半身は蜘蛛のような怪獣。角の先から可燃性のガス、口からは糸を吐く。右手の先は剣、左手の先はフックになっているが、いざというときは飛び道具として発射可能。
 地震を起こしながら地中を自在に掘り進んだが、隅田川周辺の岩盤を越えることはできなかった…


関連記事
 「魔人ハンターミツルギ」 放映リストほか


「魔人ハンターミツルギ」(コロムビアミュージックエンタテインメント DVDソフト) Amazon

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2008.02.24

「諸国グルメ放浪記」 時代ものとグルメもののハイブリッドながら…

 …突然ブログを宗旨変えしたわけではありません。本のタイトルからは到底想像つきませんが、(伝奇ものではないものの)歴とした時代もの。あの原恵一郎先生が、「鉄板少女アカネ!!」の原作者・青木健生氏と組んだ時代料理漫画であります。

 江戸時代に記されたという「諸国名産料理通」なる書物――その作者・春日拓ノ進が本作の主人公。剣の達人ながら生来の暢気者、三男坊の部屋住みで唯一の楽しみは食い道楽という拓ノ進が、藩主の「各地の美味を記した、後世にまで残る料理書を!」の命を受けて諸国を回る…というのが本作の基本設定であります。

 身も蓋もない言い方をすれば、「究極のメニュー」探しの時代劇版ですが、内容の方もグルメ漫画の三大パターンと言うべき「料理で人助け」「料理勝負」「食通凹まし」のうち、前二者を――特に人助けを――中心に描かれており、グルメ漫画としては水準の出来(最終回に、料理の基本に立ち返って、料理人の「心」の大切さを説くというのも定番中の定番)。
 時代ものとしても、普段は穏和な拓ノ進が、酒が入った途端に急に超強気になるという設定が、毎回色々と一悶着を起こすこととなって、なかなかに楽しめます。

 とはいえ、時代ものとグルメものという、縁があるようなないような二つの要素を違和感なくまとめたのは評価できるのですが、あくまでも水準の出来であってそれ以上でもそれ以下でもなく、また冒頭に触れたように伝奇要素もなければネタ要素も低め(拓ノ進の脇差が、伝説の包丁鍛冶・鐵休の打った包丁型脇差だったり、長崎編で登場するオランダ商人がよりによって「次郎長放浪記」のクーマン神父と瓜二つだったりというのは個人的に面白いのですが)の本作。
 それでも敢えて本作をここで取り上げたのは、原恵一郎先生の数少ない時代漫画の一つであり、また、正式に単行本化されずコンビニ売りコミックのみ、タイトルも「酔いどれ包丁」から「諸国グルメ放浪記」という身も蓋もないものに変えられてしまった本作を(全く恥ずかしながら、某氏に本をいただくまで、存在すら知りませんでした…)ここで書き留めておきたいと考えた次第です。

(にしてもリイド社は連載漫画の単行本化率が結構低く、本作のような形でコミック化されるのはまだましな方であり、全く単行本化されなかったり、されたとしても途中までだったり抜粋版だったりとファン泣かせであります。私ゃいまだに「慈恩」の続巻と「丹下左膳」の完全版をあきらめてないぞ…)


「諸国グルメ放浪記」(原恵一郎&青木健生 リイド社SPワイドポケット) Amazon

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 「次郎長放浪記」 時代ものとして、ギャンブルものとして
 「次郎長放浪記」第三巻 神の王国で最後の勝負!?

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2008.02.23

「山嶽党奇談」 公正さと正義を愛するまなざし

 金さえ積まれれば勤王・佐幕関係なく暗殺の刃を振るうという秘密結社・山嶽党。その誘いの手をはねつけた鞍馬天狗は、この憎むべき暴力の徒を壊滅させんと、戦いを挑むことを決意する。しかし、神出鬼没の山嶽党の魔手は、天狗と杉作を幾度となく苦しめる。果たして謎に包まれた結社の正体は。

 丁度NHKのドラマ版で放映されたということで、「山嶽党奇談」を再読しました。名作「角兵衛獅子」同様、杉作少年が鞍馬天狗の愛すべき相棒として活躍する少年向け小説でありながら、発表から数十年経った現代の大人の読者が読んでも十分に楽しめる快作です。

 本作の特長は、やはり鞍馬天狗の、そして新選組の共通の敵となる山嶽党でしょう。金で暗殺を請け負う結社でありながら、その行動は神出鬼没、神出鬼没ぶりでは負けないはずの天狗ですら、その動きを捉えるのには苦闘を強いられる強敵であります。この山嶽党と、我らがヒーロー鞍馬天狗の、逆転また逆転、文字通り打打発止のやりとりが、本作の魅力とも言えるでしょう。

 しかしここで注目すべきは、この山嶽党の性格でしょう。勤王でもなく佐幕でもなく、ただ金を払った相手の望みに応じて暗殺を行う山嶽党は、思想なき暴力の化身とも評すべき集団。その存在は、たとい死闘を繰り広げる相手であっても可能な限り力の行使を避けようとする、そしてたとい主義主張を一にする者であっても理不尽な暴力を用いる者には決して組みしない天狗とは、まさに対極にあると言えます。

 初登場時は、激烈な勤王の闘士として描かれた鞍馬天狗は、しかし、物語が書き継がれるにつれて、その性格を変容させ、思想から一定の距離を置いた、人々の自由のために戦う遊撃剣士として描かれるようになります。
 そのターニングポイントの一つとも言える、本作の前に描かれた「角兵衛獅子」のラストでは、天狗と宿敵との間の戦いの、時代小説史上屈指の爽快な結末が描かれます。それを受けての本作が、このような、主義主張に関係ない憎むべき敵を設定してみせたのは当然の帰結とも言えるかもしれませんが、しかし執筆時期を考えれば、作者の公正さと正義を愛するまなざしに胸を打たれます。

 もちろん、こうした明快で理想主義的な描写は、少年小説だからこそ許されるものかもしれません。しかし、少年小説だからこそ描かれるべきものが確かにあるのであり――そしてあたかも杉作に語りかける天狗の如く、作者がそれを読者に語りかけているからこそ、本作は時代と世代を越えて魅力的なのだと、改めて感じ入った次第です。
 少年小説になーにを真剣になっているのだと笑われるかもしれませんが、こういう感想もあるということで一つ。


「山嶽党奇談」(大佛次郎 文藝春秋) Amazon

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 「鞍馬天狗」 第四回「山嶽党奇談 前編」
 「鞍馬天狗」 第五回「山嶽党奇談 後編」

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2008.02.22

「鞍馬天狗」 第六回「天狗と子守歌」

 諸般の事情により今日は短縮版。
 えー、お世継ぎを巡る騒動ネタと、曰く付きの赤ん坊を預かって…ネタというのはどちらも定番ではありますが、今回はその組み合わせ。正直に言って、21世紀のNHKでこんなベタなお話を見れるとは…と変なところで感心してしまいました。

 もっとも、話のクオリティ的にはまあ水準で普通に楽しめる内容。ただ、鞍馬天狗でこれをやる必然性はどうなのかしら…以前から本作で目立つ異常な幾松プッシュが今回も顕著で、どうみても幾松が主人公で天狗は脇役だな、と思いながら見ていて、ふと考えてしまいました。
 今回、野村萬斎の都合で、あまり天狗の登場するシーンが作れなかったんじゃ…いや、あくまでもこちらの勝手な想像ですが。

 が、そんなこちらの邪推も吹っ飛ぶインパクトだったのが、クライマックスで炸裂したイカスラッガー。冒頭の投扇興が伏線だったのだとは思いますが、いやあれはもの凄い破壊力です(見ているこちらの脳に)。
 ダメな時代劇ファンとしては大喜びでしたが、ウルトラシリーズを執筆されていた脚本の川上英幸氏的にあれはどうなのかしらんと、これまた余計なことを考えてしまった次第。

 さて、次回はいよいよラストエピソードの「角兵衛獅子」。杉作役は「しゃべれどもしゃべれども」の子役の子みたいですね。これは期待できるかもしれません。


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 「鞍馬天狗」 第二回「宿命の敵」
 「鞍馬天狗」 第三回「石礫の女」
 「鞍馬天狗」 第四回「山嶽党奇談 前編」
 「鞍馬天狗」 第五回「山嶽党奇談 後編」

関連サイト
 公式サイト

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2008.02.21

「風の陰陽師 1 きつね童子」 陰陽併せ持つ登場人物たちの魅力

 幼くして父を失った安倍晴明は、実は母が信太の森の狐であったと知り、母を慕って京を飛び出す。様々な冒険の果てに陰陽の術を会得して京に戻り、正式に陰陽寮で学び始めた晴明は、ある日、主の前での術比べを命じられる。その相手は旅の最中で知り合った野心家の陰陽師・蘆屋道満だった…

 さすがに一頃に比べるとずいぶん作品点数は減ってきましたが、やはり安倍晴明は今でも平安ものにおいて人気者であることは間違いありません。この「風の陰陽師」シリーズの第一巻「きつね童子」もその一つ。
 レーベルこそ児童文学ではありますが、ストーリーのひねりといい人物描写といい、子供だけでなく、(晴明ファンの)大人が読んでも十分に楽しめる作品となっています。

 この第一巻で描かれるのは、晴明の生い立ちから、彼が陰陽師として初の「公的な」活躍をみせるまでのエピソード。
 晴明の生まれといえば、かの「信太狐」の物語をご存じの方も多いかと思いますが、本作でもタイトルに表れている通り、晴明は人間の父と狐の母の間に生まれたハーフという設定となっています。

 その他にも、本作の題材となっているのは今昔物語集などに記された、晴明の史実、あるいは伝説。賀茂忠行の夜行に随行した際に百鬼夜行を目撃した話や、帝の前で行われた道満との当てもの勝負などは、いずれも「晴明もの」には定番のエピソードであり、いわばお約束的なものと言えます。

 しかし、本作がそうしたエピソードのパッチワークで構成された、安直な内容の作品かと言えば、それは断じて否、であります。
 個々のエピソードをつなぐもの、そして個々のエピソードの中に含まれているものは、本作独自の、本作ならではの視点とアレンジであり、その換骨奪胎ぶりには、晴明ものはそれなりに読んでいるつもりの私にとっても、なかなか新鮮に感じられました(特に、晴明の最初の師匠となる人物が、智徳法師というのに吃驚)。

 そしてそれだけではなく、本作をして子供向け小説の枠を越えた読み応えの作品としているのは、登場人物が皆、単なる書き割りではなく、それぞれに複雑な内面を抱えた存在としてきちんと描いていることでしょう。
 己に秘められた力に気付かず、己の臆病さと孤独に悩む晴明。袴垂保輔を超える盗賊王となることで己の存在を示そうとする晴明の親友・多城丸。晴明の兄弟子でありながら(!)私利私欲のために術を使い、しかしどこか憎めぬ道満…
 そんな、まさに陰陽併せ持つ登場人物たちの中でも特に印象に残るのは、晴明の育ての親であり第二の師である賀茂忠行のキャラクターでしょう。晴明ものの中では、温厚でものわかりの良い人物として描かれることの多いように思われる忠行ですが、本作においては、そうした側面を持ちつつも、その一方で友を裏切り権門にすり寄ることも辞さない――もちろんそれにはそれなりの理由はあるのですが――出世主義者として描かれており、それがまた奇妙なリアリティを感じさせています。

 この辺りの捻りや書き込みといったものは、やはり作者の三田村信行氏のベテランならではの筆の冴えと言うべきでしょうか。
 本作のラストでは、晴明も、多城丸も、道満も、皆それぞれに自分の目的に向けて新たな道を歩み始めますが、しかしその道は決して平坦なものではないことが想像できます。晴明の、登場人物たちの行く手に待つものに思いを馳せつつ、既に刊行されている第二巻「ねむり姫」を早く読もうと思っている次第です。


「風の陰陽師 1 きつね童子」(三田村信行 ポプラ社) Amazon

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2008.02.20

「悪忍 加藤段蔵無頼伝」第一巻 今泉伸二の新境地!?

 加藤段蔵、飛び加藤と言えば、上杉謙信や武田信玄の周囲に出没し、遂にはその技を恐れられて討たれたと伝えられる人物。忍者の得体の知れない部分、ネガティブな部分の象徴のように扱われる存在であり、フィクションの世界でも、大抵は主人公の敵役のイメージがついて回るキャラクターです。
 その加藤段蔵を主人公として真っ向から描いた海道龍一朗先生の原作を漫画化したのが、この漫画版「悪忍」です。

 キャラクターイメージ、そしてタイトルが示すように、本作で描かれる加藤段蔵は、紛うことなく大悪党。盗む、殺す、強請る…およそヒーローらしくない言動の段蔵は、この世の裏の世界、影の世界で生きる忍びたちからも、「外道」と忌み嫌われ、そして懼れられる存在であります。

 しかしそんな彼の存在が、しかし、決して不快には感じられないのは、彼が相手にするのは、あくまでも自分と同じ悪党や、富める者強き者――今風に言えば勝ち組――であり、そして自分自身の命を(文字通り)的にしているからなのでしょう。
 友達にはあまりなりたくないが、しかし目が離せない…段蔵は、そんな魅力的なピカロ(悪漢)であります。

 さて、その段蔵を、その原作を漫画化したのは、あの今泉伸二先生。私らの世代としては、やはり「空のキャンパス」が真っ先に浮かびますが、相当に意外な組み合わせです。
 しかし、このミスマッチ感すら漂う今泉先生の描く段蔵が、なかなかよろしいのです。この第一巻に収録されているのは、原作の第一章と第三章の途中までに相当するエピソードですが、その内容を忠実に漫画化――するのは、まあ当たり前として、原作にはなかったような、段蔵のキャラ立ての描写が実にうまい。
 第一話ラストの、段蔵に返り討ちにされた女の子供のエピソードなどは、段蔵を甘く見せるギリギリのところで踏みとどまりながら、きっちり今泉節も効かせたナイスなアレンジだと思います。

 もっとも、絵的な面では、まだまだ違和感があるのは事実。失礼を承知で言えば、時折、荒々しい絵柄というより、絵柄が荒れているように見える部分もあって、そこが全くもって残念ではあります。

 まあ、それは作者が新境地を我が物にするまでの産みの苦しみと思うべきでしょう。
 物語の方はまだ序章、これからより一層原作とのシンクロ度を高めるであろう作者の手腕については心配していません。あとはただ、楽しむのみです。


 …ちなみに本書の解説は原作者が担当していますが、ご自分のオタっぷりカミングアウトもあって、ファンは必見であります。


「悪忍 加藤段蔵無頼伝」第一巻(今泉伸二&海道龍一朗 新潮社バンチコミックス) Amazon

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2008.02.19

「諸怪志異 異界録」「壺中天」 諸星版志怪譚の味わい

 スケールの大きい伝奇SFに、日常にぽっかり空いた異界を垣間見させるホラー、さらには不思議な味わいの幻想ものまで、実に幅広いジャンルの作品を発表している諸星大二郎先生ですが、中国を舞台とした怪奇譚・幻想譚も得意としています。
 この「諸怪志異」シリーズの「異界録」「壺中天」はまさにその系譜に属する作品。シリーズタイトルから察せられるとおり、実に様々な怪異の姿が、作者独特の筆で描き出されています。

 シリーズ第一巻である「異界録」には、表題作を含む全十一作が、第二巻の「壺中天」も、同じく全十一作が納められていますが、このエピソード数の多さと比例するように、内容の方も実にバラエティ豊かな作品ばかり。グロテスクで肌の粟立つような怪異譚から、怪力乱神入り乱れる妖術譚、不可思議でちょっと可笑しな幻想譚に、可笑しさ100%のすっぽ抜けた味わいのコメディまで…どれを取っても、志怪の世界を愛する者にとっては実に楽しく味わい深い作品となっています。

 考えてみれば、中国の志怪譚で描かれる、伝奇色・民俗色濃厚な怪異と、生々しくもどこかすっとぼけた人間描写は――些か牽強付会のきらいはあるかもしれませんが――どちらも作者が得意とする要素。そういった意味では、元々諸星作品と中国の志怪譚の相性は良いわけで、なるほど、この組み合わせの奇妙なまでの違和感のなさはそのためか、と感心した次第です。

 ここでは一作一作は取り上げませんが、一作品だけ取り上げるとすれば、やがり第一巻の表題作「異界録」でしょう。
 山中に消えた息子を捜しにやって来た男が、迷い込んだ先のまさしく「異界」としか言いようのない世界で出会ったモノたるや…これがまた、そのスケールの大きさと恐るべき力もさることながら、何よりもその背後にある生命幻想/生命妄想――生命の根元たる存在の提示、もしくは生命の融合・変容といった――が、実に「諸星している」存在。
 ある意味、最も作者らしい志怪譚ではないかと感じた次第です。

 なお、収録作の半数近くには、狂言回し的存在として、見鬼の少年・阿鬼(燕見鬼)とその師匠・五行先生が登場し、ユーモラスな味つけとなっていますが、続くシリーズ第三巻・第四巻ではこの燕見鬼が主人公として本格的に活躍することになります。
 こちらはこちらでまた趣の異なる作品となっております故、稿を改めて取り上げることとしたいと思います。


「諸怪志異 異界録」(諸星大二郎 双葉文庫) Amazon
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2008.02.18

沼田清版「水滸伝」 水滸伝という物語の一つの可能性を

 「水滸伝」という作品は、設定的にもストーリー的にも、良くも悪くも穴が多いためか、様々な作家がリライトしていますが、その中で、一際異彩を放つのが、この沼田清&久保田千太郎版「水滸伝」。色々な意味で、これだけ印象的な水滸伝も珍しいでしょう。

 まず目を奪われるのは、そのあまりに印象的な登場人物たちのビジュアル。例えば、晁蓋は桜玉吉の自画像チックなスキンヘッド。梁山泊の宿敵たる高キュウも、何だかファンタジーRPGの悪役みたいな奇ッ怪な冠をつけていますし…もちろん、従来通りのイメージのキャラもいるのですが、これまでの「水滸伝」像を打ち砕くビジュアルショックであります。

 が――そんなキャラクターたちが織りなす物語は、原典以上に骨太でハードな世界。
 本作における梁山泊の最大の特徴は、彼らが一貫して革命思想を強く持った存在であり、それが彼らの行動原理であることでしょうか。
 確かに梁山泊入りのきっかけは様々ではありますが、彼らの求める理想は、現政府の打倒と、新たなる国造り。漫画に限らず、数ある我が国産水滸伝でも存外に珍しいベクトルから、本作は描かれていきます。
 その意味では、本作に一番近いのは、あの北方謙三版かもしれません。そういえば、梁山泊に打倒されるべき国家の象徴である本作の高キュウは、原典のように単なる姑息な佞人ではなく、むしろ北方版の童貫と蔡京を足して二で割ったような強敵でありました。

 もう一つ、本作を印象深いものとしているのは、男泣き度の高い人物描写でしょう。
 梁山泊入りした直後の廬俊義の姿など、その好例でしょう。原典では妻に裏切られても復讐したら割とあっさりしていた廬俊義ですが、本作では悲しみのあまりにほとんどアル中状態。その姿を見るに忍びず、大逆を覚悟で、燕青は酔い潰れた主人に刃を向けるのですが――やはりそれを振り下ろすことはできず、しかし、彼の行動に気づいていた廬俊義は、その想いに応え、再び立ち上がる…

 その男泣き度がMAXになるのは、終盤、好漢たちが一人、また一人と戦いの中に斃れていくシーン。流石に全員分はありませんが、非命に斃れる好漢たちの残す最期の言葉が、また最高に格好良くて…
 そしてラスト、原典通りに、李逵と共に宋江が死を迎えるのですが、その姿がまた素晴らしい。原典では、最後の最後まで迷惑な…という印象だった二人の最期が一変、いかにも豪傑好漢らしいその最期は、理想郷・梁山泊の最期と見事に重なり、心打たれます。
 梁山泊へ、そして全ての好漢たちに向けられた最期の言葉は、同時に全ての水滸伝ファンの心の叫びと申せましょう。

 ビジュアル的には微妙な部分はあれど、ドラマとしてはそれを補って遙かに余りあるこの水滸伝。水滸伝という物語の、一つの可能性を見せてくれた名品です。


「水滸伝」(沼田清&久保田千太郎 講談社) Amazon

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2008.02.17

「鞍馬天狗」 第五回「山嶽党奇談 後編」

 こないだうちの母から来たメールに「お主」とか書いてあったので打ち間違えかと思ったら「あのとき「鞍馬天狗」観てたから」とか言っていて、なるほどこういう層に(も)人気があるのか…と感心しました。
 その「鞍馬天狗」の「山嶽党奇談」後編。

 桂小五郎演じるニセ鞍馬天狗を使っての山嶽党潜入作戦とか、どんどん武闘派になっていく白菊さんとか、色々と面白い題材はあったのですが、やはり面白かったのは天狗と近藤勇の関係の描写でしょう。

 図らずも共通の敵の出現の前に肩を並べて刃を振るうこととなったのをきっかけに、どんどん天狗ラヴになっていく近藤(そしてそれを目の当たりにして複雑そうな表情の土方)。
 その近藤が、上からの圧力で自由に動けなくなった時に(もちろん後できっちりと裏をかいて敵を殲滅するんですが)、天狗が代わって敵の黒幕を討つというシチュエーションが面白い。
 (本人が望むと望まざるとに関わらず)組織に縛られたの近藤に対し、浮き世のあれこれに縛られることなく単騎で遊撃戦を展開する鞍馬天狗というのは、両者の立場というより、思想の違いすら感じられて、興味深い対比だったかと思います。
 もっとも、本来であれば勤王浪士方にも組織の枠というものがあるわけで、その辺りが描かれれば、小野宗房=倉田典膳と鞍馬天狗を演じ分ける意味も出ると思うのですが、それはさておき。

 そして、その両者の敵となる山嶽党の正体が、原作においては単なる職業的暗殺結社だったのに対し、今回のドラマ版では社会主義的革命結社となっていたのは、原作の執筆年代なども考えるとなかなか興味深いものがあります。
 しかし、もっともっと腹黒くて悪い、絵に描いたような黒幕が出てきたおかげで、このドラマ版山嶽党の独自性が薄れてしまったのは個人的には残念なところ。山嶽党をもう少し天狗と対比させて描いていたら、天狗の内包する矛盾や、それでもなお浮かび上がるヒーロー性といったものも描けたのではないかしら、と思いました。
(いや、単純明快なヒーローの方がウケるんでしょうけどね)

 さて、大仕掛けなエピソードの次は人情ものチックなお話のようですが…果たしてどうなることでありましょうか。


関連記事
 「鞍馬天狗」 第一回「天狗参上」
 「鞍馬天狗」 第二回「宿命の敵」
 「鞍馬天狗」 第三回「石礫の女」
 「鞍馬天狗」 第四回「山嶽党奇談 前編」

関連サイト
 公式サイト

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2008.02.16

「吸血鬼あらわる! 帝都〈少年少女〉探偵団」 吸血鬼の、その正体は…

 面白そうな作品があればどんなジャンルでもどんなメディアでも飛びつくこのブログ、今回取り上げるのは楠木誠一郎先生の「帝都〈少年少女〉探偵団」シリーズから「吸血鬼あらわる!」。
 明治時代を舞台に、帝都〈少年少女〉探偵団と、黒岩涙香率いる「万朝報」の面々が、帝都東京を騒がす吸血鬼事件に挑む児童文学であります。

 年の瀬の帝都で続発する連続吸血殺人事件――被害者は美女ばかり、その首筋には噛み後が残され、体には一滴の血も残っていないという奇ッ怪な事件に黙っていられないのは「万朝報」と探偵団の面々。
 しかし、その犯人と目される謎の異国人は、彼らの捜査をあざ笑うように、上野の国立博物館に展示された宝石「悪魔の血」強奪を予告してきます。探偵団は、宝石を守り、姿なき怪人を捕らえるため博物館に乗り込みますが…

 さて、本作のキモはもちろん、この、吸血鬼と、主人公たちとの対決にありますが、ちょっと驚かされたのは、登場する吸血鬼の造形が、ほとんどドラキュラ写しであること。
 それどころか、一連の事件から犯人の正体を推理する際に涙香先生が持ち出してきたのは、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」…メタというか何というか、失礼ながらちょっとこれは安直なのでは――そう思った時期が私にもありました。
 それに加え、探偵団が街を往けば吸血鬼に出会ったり、ポッと現れたキャラの言葉で事態が動いたり…といった展開には、やっぱり子供向けだからなあ、と苦笑していたのですが――ごめんなさい、私がバカでした。

 中盤以降、探偵団対吸血鬼の怒濤の対決の中で、そしてその果てに明かされる真実は、この違和感の一つ一つに、ミステリ的答えるものでありました。
 その最たるものが、吸血鬼の正体。冷静に考えれば、思い切り反則技ではあるのですが、しかし、一読「だからか!」と唸らされた、むしろ痛快ですらある大どんでん返しでありました。

 一個の作品としてみると、探偵団や「万朝報」の一人一人の個性が薄いという弱点はあるのですが、さすがにページ数の制約もあるということで、それはまあ置いておきましょう。
 何よりも、全く予想もつかなかった手で、古き良き少年(少女)探偵の世界と、ホラーモンスターを結びつけて見せた離れ業に、敬意を表したいと思います。
 シリーズの続編には、「透明人間あらわる!」「人造人間あらわる!」と、これまた挑発的なタイトルな作品があるようで、こちらもチェックしなくては…と考えている次第です。
(しかし、まさか毎回同じオチではあるまいな…)


「吸血鬼あらわる! 帝都〈少年少女〉探偵団」(楠木誠一郎 ジャイブ) Amazon

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2008.02.15

魔人ハンターミツルギ 第04話「黄金妖怪カネクジラの魔力!」

 次々と幕府御用金の輸送隊を襲撃するサソリ一味。その狙いは、奪った小判をカネクジラに食わせ、その体内で毒小判にして吐き出し、それを拾った江戸の人々を殺すことだった。江戸の各地を襲撃したカネクジラとサソリ一味は、次に江戸城御金蔵を狙うが、しかしミツルギ三兄弟は先手を打って御金蔵の黄金を盗み出す。追ってきたカネクジラにミツルギ三兄弟は巨大神ミツルギに合身して対抗、二転三転する戦況の中、銀河の仕掛けた罠によってカネクジラは粉砕されるのだった。

○佐渡から大宮まで御用金を運んできた後藤庄三郎(おお、実在の人物!)配下の侍に、助力を申し出る服部半蔵配下の御庭番(…え?)ですが、侍はこれを拒絶。何とサソリ忍者たちを呼び出します。驚く御庭番に、これは敵の目を欺くための後藤の策だと言う侍ですが…いや、それは意味ないだろう

○案の定本物のサソリ軍団だった輸送隊。本物の輸送隊は既に皆殺しにされていました。大八車の轍の跡を追ってきた三兄弟の前にサソリ忍者たちが出現、三兄弟はこれを一掃しますが、そこにミニチュア感溢れる怪しげな怪物が…

○三兄弟の前から穴を掘って逃れたカネクジラは、江戸に出現。突如江戸市中に小判の雨が降ってきて江戸市民大喜び…と思いきや、それはカネクジラが吐いた毒の小判(ってナニ?)。小判を拾った人々は苦しみ倒れて市中は大変な有り様になります。

○カネクジラに怯えつつも、小判を拾う市民の姿が何とも言えない展開。しかし小判撒いているシーンのカネクジラ、どうみてもそこらの家の屋根よりちょっと大きい位なんですが、次のシーンでは家の何倍もあるサイズに…

○江戸各地の大店を襲撃し、小判を食らっては毒小判にして吐くカネクジラ。実は既にサソリの手に落ちていた後藤は、次のターゲットとして江戸城御金蔵から金を奪おうとしますが、そこに残されていたのは…「御金蔵の大判小判は残らず頂戴した ミツルギ三兄弟」の紙。 こ れ は ひ ど い

○大八車で千両箱を運んできた三兄弟は沼のほとりにやってきますが、そこにもんのすごい目張りをした後藤様以下サソリ忍者たちが。サソリ忍者は銀河に一蹴されますが、さらにカネクジラも出現。三兄弟はもの凄い大ジャンプから空中でミツルギ合身!

○後ろ足で立って襲ってきたカネクジラをもっさい盾パンチでダウンさせるミツルギ。しかしカネクジラは地中に潜っての奇襲で今度はミツルギをダウン――と思いきや、雷がゴロゴロ鳴ったと思ったら次の瞬間にはミツルギはすっくと立って…と、映像で観てもよくわからないのに文章ではもっとわからない攻防です。

○しかし体内の小判が切れたカネクジラはガス欠気味に。ここでさっきの千両箱を食べようと沼に飛び込むも、この沼は底なし沼。まさかここで地味に決着か!? と思いきや普通に泳いでいるカネクジラ。ご満悦の魔人サソリ様、「こういうこともあろうかと、水陸両用の妖怪を徹底的に生み出しておいたのよ!」と謎すぎる言葉遣いです。

○向こう岸に泳ぎ着いて千両箱を食べ始めるカネクジラ。慌てる彗星に、銀河は落ち着いている様子ですが…(合体したままでも兄弟で会話できるんですね)。と思ったらカネクジラいきなり爆発! 「千両箱の中に爆薬を仕掛けた箱を混ぜておいたのさ」銀河兄さん… こ れ は ひ ど い


 これまでのエピソードでは色々な意味で個人的に最も面白かった今回。奇ッ怪なミツルギ忍法はほとんど登場しませんでしたが、カネクジラの突飛ながら微妙に説得力のある作戦と、終盤のミツルギ対カネクジラの二転三転する攻防(あと、魔人様の怪発言)、そして目的のためなら手段を選ばなさすぎる三兄弟と、本作ならではの実にオリジナリティ溢れる展開を堪能させていただきました。
 特にいくら幕府と自分たちが無関係だからって…と言いたくなるほどの三兄弟(というか銀河兄さん)の掟破りなアナーキーな策には感動すら憶えました。まあ、ミツルギの一族は基本的に外の世界と接触を断ってたみたいだから無理もない…かなあ?
 これで映像が内容に見合ったものだったら…とつくづく残念に思います。


<今回の怪獣>
カネクジラ
 体中がイボイボで埋め尽くされた恐竜めいた外見の怪獣…いや妖怪。黄金をエネルギー源とし、また食べた小判を毒小判にして吐き出し、これに触れた者は悶え苦しんで死ぬ。毒小判と巨体以外の攻撃手段はないようだが、地面に穴を開けて素早く移動することが可能。
 銀河は「黄金妖怪…魔人サソリめ、とうとう奥の手を出しやがったな」と何故か存在を知っていた。


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 「魔人ハンターミツルギ」 放映リストほか


「魔人ハンターミツルギ」(コロムビアミュージックエンタテインメント DVDソフト) Amazon

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2008.02.14

「髑髏菩薩」 良くできた作品ながらも…

 長崎での医学修行から江戸に帰った青年・志垣数馬を待っていたのは、許嫁・しのの父で公儀隠密の倉地新五郎が殺害され、しのが行方不明となったとの知らせだった。任地から新五郎が持ち帰った髑髏菩薩の絵図の存在を知った数馬は、この謎を解き、しのを救わんとするが、その前に出羽魔道衆を名乗る一団が立ち塞がる。

 先日ご紹介した「あやかし同心 死霊狩り」に登場した長崎帰りの医師でフェンシング剣法の使い手の志垣青年の原型が登場するのが、本作「髑髏菩薩」であります。

 約十五年前に発表された本作をこの機会に読み返してみましたが、颯爽とした主人公に可憐なヒロイン、義侠心に富んだ仲間、そして謎を秘めた秘宝と、邪悪な怪人たち…まさに時代伝奇小説の王道を往くような道具立てがやっぱり楽しい。
 意外と珍しい、主人公の日本刀を用いたフェンシング剣法や、出羽魔道衆の首領・跡部幻夢斎の存在感など(ちなみにこの幻夢斎、モデルはやっぱり「風雲将棋谷」の蠍道人黄虫呵なのかしらん)もあって、なかなか良くできた作品という印象は、初読の時と変わりません。特に蜘蛛嫌いの人間にとってはなんだか無償におっかなくて…

 が、正直なところ、逆に言えば、「なかなか良くできた」以上の作品でないのもまた事実。この小説ならでは! という要素が――上記に挙げたのを除けば――薄目なのが残念なところです。そのまとまりの良さが、逆にインパクトを薄めている…と言っては失礼にすぎるでしょうか(クライマックスの大爆破っぷりはものすごいのですが。っていうかひどい主人公だな)
 もちろん、さすが大ベテランの加納一朗先生だけあって、一個のエンターテイメント小説としての完成度は高く、ファンであれば読んでも損はない作品であり、これは私の贅沢の言い過ぎですが…


「髑髏菩薩」(加納一朗 フタバノベルス) Amazon

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 「あやかし同心 死霊狩り」 帰ってきた大江戸怪奇大作戦

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2008.02.13

「ネリヤカナヤ」第一巻 ユニークな試みの水滸伝記

 誠に残念なことながら、現代の日本では三国志に知名度の点で遠く及ばない水滸伝ですが、それでも想像以上に多くの二次創作が毎年発表されています。
 本作「ネリヤカナヤ」もその一つ。ネリヤカナヤとは聞き慣れない言葉ですが、奄美の言葉で、沖縄で言う「ニライカナイ」と同じもの――すなわち「海のかなたの楽園、常世」の意であります。おそらくは水のほとりの理想郷・梁山泊を指してのタイトルでしょうか。

 この第一巻では、豹子頭林冲と花和尚魯智深の出会い、そして開封府から旅立った二人が立ち寄った桃花村での大騒動が描かれます。
 面白いのは、林冲の設定がだいぶアレンジされていることで、たとえば元の身分については、原典では八十万禁軍の槍術師範だったのが、こちらでは尚書省刑部長官付きの間者(巡視官)という設定。その彼が任務で登州に向かうのに、彼に興味を抱いた魯智深が強引に同行することになるのですが、水滸伝ファンであれば、この時点でストーリー展開に大きな違いがあることがわかるかと思います。
(原典では林冲が開封府から出るのは、原典では妻に目を付けた悪党に陥れられて流刑となったため)

 こうした差異は、本作が林冲を主人公に水滸伝の物語を再構成する、という基本コンセプトのためでありましょう。原典の前半は、好漢一人一人の銘銘伝のスタイルで、一人の好漢の物語が、次の好漢の物語に繋がっていくという形式でしたが、これが林冲メインのストーリーとなることで、このような形になったのであれば、なかなかユニークな試みだと思います。

 さて、スタイルだけでなく内容にも目を向ければ、この第一巻の時点ではまだまだプロローグといった印象ながら、シャープな絵柄と緩急つけたストーリー構成で、なかなか面白い作品となっており、さらに大きなアレンジとなりそうなこの直後の展開も含めて、今後も期待できそうな作品かと思います。


 ――が、ここで大きな問題が一つ。実は本作、元々は同人作品として発表されたものが、商業出版社から刊行されたのですが、この第一巻が出た後に出版社は倒産。
 続編は引き続き同人作品として刊行されているのですが、本サイトでは商業作品以外は基本的に扱わないこととしているもので…
 もちろんこれは私自身の勝手な拘りですし、何よりも水滸伝ファンとして本作を見逃しておく手はありません。何とかして続編も手にしたいと思っている次第です。


「ネリヤカナヤ」第一巻(朱鱶マサムネ 司書房CROWN SERIES) Amazon

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2008.02.12

「諸刃の博徒 麒麟」 これもまたギャンブル

 講談社の漫画雑誌はずいぶん時代ものに理解がある、というのは勝手な思いこみかもしれませんが、たとえば「ヤングマガジン」誌の掲載作品を見ると――必ずしも毎号載っているわけではありませんが――実に三つの時代ものが掲載されているのに驚かされます。
 毎回紹介している「Y十M」に、最近第二部の始まった「センゴク」、そして三つ目が本作「諸刃の博徒 麒麟」であります。

 時は幕末、黒船が来航し、世情騒然とする中、次々と江戸の町を騒がす事件。それに首を突っ込んでは、維持と度胸で事件を解決していく博徒・麒麟の活躍を描いたシリーズです。

 麒麟が挑む先は、黒船の武力をバックに強奪を働く異国人に、表では男伊達を気取りながら裏に回れば外道な町火消しの頭領、さらには石田散薬の薬売りやら若き日の徳川最後の将軍やら、とんでもない相手がぞろぞろ。
 そんな相手に挑む麒麟の武器は…命知らずのクソ度胸と、どこまでも野放図で明るいキャラクターであります。

 正直なところ、タイトルで「博徒」と謳っている割にはギャンブルシーンはあまり印象に残らず(現時点で一番派手だった「懊悩の野犬」編が博打ではなく喧嘩勝負だったためかもしれません)、そこが個人的に残念なところではあります。
 しかし考えてみれば、ゲームとしてのギャンブルではなくとも、麒麟が見せる己の命を賭けての大勝負は、まさしく「博打」以外のなにものでもなく、その意味では本作はやはりギャンブル漫画と言うべきなのかもしれません。

 と言いつつ、やっぱり命を賭けた変態ギャンブルを見たいなあ――もっとも、その分野では「カイジ」という化け物が同誌にいるので分が悪いのですが――たとえば命がけの双六とか…などと勝手なことを思っていたら本当に双六勝負が始まったので吹きました。

 閑話休題、有名な人物や事件が多いだけに、オリジナル作品を描こうとしても、一歩間違えるとそうした史実に食われかねないのが幕末ものの怖いところ。本作がその点を、博徒――さらに言えば、時代の主流から外れたアウトロー――という視点から時代を眺め、物語を構築していくことでうまく回避しているのは、なかなか見事な業前ではないかと思います。

 麒麟のキャラクター同様、荒削りながらも内に秘めた爆発力と器の大きさを感じさせる作品――と言っては褒めすぎでしょうか?


「諸刃の博徒 麒麟」(土屋多摩&村尾幸三 ヤングマガジンKC) 第一巻第二巻第三巻

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2008.02.11

「幽王伝 陸奥剣鬼連合」 死者と生者を分かつものは

 東雲藩での仏陀蒼介と冥府流の御前試合は、単なる剣術勝負の域を越え、将軍家指南役を巡る暗闘に繋がっていく。幕府も老中を、そして柳生十兵衛を送り込む中、柳生刑部が、おえんが、陣吾が、それぞれの思惑を秘めて暗躍する。そして決戦の日、蒼介の前に現れた冥府流代表とは…

 菊地秀行先生の長編時代伝奇ノベル「幽王伝」も、遂に完結です。好漢・仏陀蒼介と冥府流との決戦をラストに控えて、一巻丸々決戦前夜とも言うべきこの第三巻…これまでの激闘で冥府流剣士団はその姿を減らしていったものの、それを補うかのように(?)あの柳生十兵衛が登場。さらにそのバックには、江戸初期最大の謀臣とも言うべき土井大炊守が控え、東北の一藩に始まった戦いが、ずいぶんとスケールアップを見せることになります。

 もちろん、これまでのレギュラー陣も健在ですし、さらに特別ゲストとしてあの針術総帥のご先祖様も登場し(本当にゲスト程度なのが勿体ない)、善魔入り乱れての複雑怪奇な人間模様は、これはもう伝奇ものの醍醐味の一つかと思います。

 しかし――全く正直なところを申し上げれば、本作、単独の時代伝奇アクションとしては知らず、「幽王伝」の、それも完結編として面白かったかと言えば…であります。
 御前試合という決まったゴールに向けての時間(分量)が多すぎたり、登場人物の交錯が物語をドライブする方向に働いていなかったりと、原因は幾つか思いつきますが、最大の理由は、結局、死者の剣たる冥府流の剣と、それを打ち破る生者の剣たる蒼介の剣を、明確に描き切れなかった…その点に尽きるかと思います。
(冥府流総帥がありえないくらい小物だったのは、あれはもうネタキャラだったとおもうことにします)

 蒼介の、飄々とした、それでいて熱いキャラクターは最後まで魅力的でありましたし(数こそ多くないものの、好漢主人公を描かせたら、菊地先生は相当の名手かと思います)、何よりも、決戦の場に現れた冥府流の代表者が、意外でありながら、成る程この人物なら、いやこの人物でなくてはと思わされる者だった点など、非常に面白くはあったのですが…

 死者と生者を分かつものは、希代の伝奇の名手をもってしても扱いが難しいものであったか…というのは、かえって失礼に過ぎるでしょうか。


「幽王伝 陸奥剣鬼連合」(菊地秀行 ハルキノベルス) Amazon

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 今明かされる冥府流誕生秘話 「幽王伝 魔剣烈風篇」

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2008.02.10

「鞍馬天狗」 第四回「山嶽党奇談 前編」

 もう原作とはなるべく切り離して考えるようにしようと思いつつ、なかなかそうできない悲しさを勝手に抱えつつ見てます「鞍馬天狗」。今週は「山嶽党奇談」の前編、鞍馬天狗と新選組の前に、第三勢力たる暗殺結社・山嶽党が出現します。

 京で相次ぐ殺人――ただでさえ勤王だ佐幕だとテロ/カウンターテロと続く中で、一連の殺人が性質を異にするのは、それが勤王でも佐幕でもない、殺人を金で請け負う秘密結社・山嶽党によるものだということ。
(…まあ、秘密と言いつつ、犯行現場をあっさり白菊さんに目撃されたり、そこを天狗にあっさり追い払われたりするわけですが)

 勤王でも佐幕でもないということは、そのどちらの味方をするということであると同時に、そのどちらにも牙を剥きかねないということ。
 お互いに激しく争いながらも、共にこうした金による殺人を良しとはしない鞍馬天狗と近藤勇は、共にこの山嶽党を敵に回すことになって…という展開。

 ライバル同士が共通の敵を迎えて、(心ならずも)手を組むというのは、エンターテイメントの王道パターンの一つですが、ラストでは山嶽党の大群(ほんとにえらい数)を、天狗と近藤勇は背中を合わせて迎え撃つことに…あ、結構格好いい。

 が――ここであえて文句を付けると、ちょっと共闘が早かったのではないかなあ…という印象はあります。そもそも、宿敵と言いつつ、天狗と近藤は、これがほぼファーストコンタクト。それ故にお互い共闘に抵抗が薄かったということかもしれませんが、何というか、こう、何度も戦ってきた同士が手を組む方がよかったのではないかなあ、という気がします。

 冒頭で言っていることに反して恐縮ですが、原作ではこのエピソードはもう少し後、このドラマ版ではラストに予定されている「角兵衛獅子」の次のエピソードなのですが、この順序が逆になってことで、上記の違和感が生まれたのかな、と思います。
(まあ、こんなのは小さなことではありますが…何よりも、原作の杉作少年という、ある意味一番ニュートラルな視点がなくなったのは大きいかと)

 もちろん、ドラマにはドラマなりの思想があっての構成となっているのは間違いない話。後編で物語が、そして何よりも天狗と近藤の関係がどう展開するのか、見届けたいと思います。
(ダブル桂小五郎はどうでもよい)


関連記事
 「鞍馬天狗」 第一回「天狗参上」
 「鞍馬天狗」 第二回「宿命の敵」
 「鞍馬天狗」 第三回「石礫の女」

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2008.02.09

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 告白イベント不発の巻

 香炉銀四郎の死を賭した(?)一撃により、遂に降伏を余儀なくされた十兵衛の姿から始まる、今週の「Y十M 柳生忍法帖」。既に覚悟した十兵衛に躍りかかる最後の七本槍、漆戸虹七郎ですが…

 ちょっと、既に戦闘意欲をなくした十兵衛を斬って嬉しいのアンタ!? 雪地獄で勝負を望まれてデレっていた姿は偽りだったの?
 と軽くツッコミを入れたくなりましたが、それを静止したのは銅伯老。しかも銅伯老、素直に銀四郎の腕を踏み潰して霞網からほりにょを解放しますが…もちろん仏心が芽生えたわけではない。

 十兵衛らをただ殺しては面白くない。十兵衛により深手を負った明成を治療してから、その眼前で、一寸刻み五分試し、それはもう精神的ブラクラ画像みたいな有様で処刑してやろうと――しかも十兵衛に、眼前でほりにょが惨殺される様を見せつけてから――いう魂胆であります。
 まさに悪の王道、悪人外道が少なくない山風作品でも珍しいくらいの悪っぷりであります。
 まあ、悪党の「一思いには殺さん」は、大逆転されて死亡フラグなわけですが…

 が――そこで思わぬ椿事。こんなタイミングでおゆらさまの十兵衛への告白イベントであります。
 もう獣心香のおかげでデレッデレ、触れなば落ちんどころではない風情ですが、これに対する十兵衛の答えは「うるさい どけ」…

 …いついかなる時も女性に対して紳士的態度を崩すことなかった十兵衛のこの反応には、正直ちょっと驚かされましたが、冷静に考えてみれば相手が相手、状況が状況であります。
 十兵衛にとっておゆらは、これまで敵の一員として、いやむしろ率先して十兵衛や会津の女性たちを苦しめてきた不倶戴天の敵であり――しかも今は獣心香で頭がアレになっている状態。しかもほりにょが死刑宣告をされた時に、何を考えている(…ナニのことじゃないでしょうか)このビッチ…くらいのことを考えていそうです。

 しかしそれでいいのか十兵衛よ。出会いは最悪、日頃もツンケンしてイヤな女に思えても、何かの拍子に可愛いところが見えちゃう、おゆらさまはまごうことなきツンデレにござるぞ!
 …と言っても、21世紀の特殊性向が、ただでさえ女心に疎い十兵衛に理解できるわけもなく、かといって振り払っても貼り付いてくるのでそのままにして――十兵衛が連行されたのは、あの鶴ヶ城地下。そこで彼らを待っていたのは沢庵和尚ですが…

 この状況で、沢庵が合流したところで何が変わるとも思えませんが、長かった仇討ちすごろくもあがり目前。いや、あがりどころか、目の前で失格にされそうな勢いですが…とりあえず一週休みということで。

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2008.02.08

魔人ハンターミツルギ 第03話「悪魔の呪いを破れ!」

 魔人サソリの放った怪獣ムカデラーは、進路の城を次々と壊滅させながら、江戸城を目指していた。途中の城の一つに火薬を詰め込み、ムカデラーを爆破しようとする幕府に対し、魔人サソリは火薬奉行を誘拐してこれに拷問を加え、計画の詳細を探ろうとする。陰謀を察知したミツルギ三兄弟は奉行とその息子を救い出し、ミツルギに合身してムカデラーを粉砕するのだった。

○途中の城一杯に火薬を詰めてムカデラーもろとも吹っ飛ばすというバカすぎる作戦に異議を唱える常識人の火薬奉行・山城守。しかし上様の命とあっては仕方なく…

○誘拐された山城守を追って、怪しい屋敷を見張ることにした三兄弟は忍法木隠れで木と一体化。さらに彗星は忍法五体縮みでミクロ化して屋敷に潜入…っておい!

○途中で鼠に出会ってピンチと思いきや、今度は忍法猫変化で猫に変身して追い払う彗星。でも、帰りは猫変化しないで手裏剣で鼠を撃退したおかげで、潜入がばれました。

○山城守の息子が袋詰めにされて連れて行かれるところに駆けつけた銀河。忍法粘り足(投げた筒から出てくる接着剤で動けなくなる)でサソリ忍者の動きを封じて息子を取り戻してから、おもむろに取り出した手榴弾で動けない相手を爆殺! ひっでえ!

○襲われることを知っていたのに何で袋に入れられるまで黙っていたのという少年のもっともな質問に、「まだ幼い坊やに無惨な戦いを見せたくなかった」と答える銀河ですが…確かに↑は無惨だ

○アジトを引き払うサソリたちに連行される
山城守。彗星は山城守に忍法仮死の術をかけ(=仮死毒を塗った吹き矢で狙撃)、サソリたちに死んだと誤解させて山城守を首尾良く奪還。さらに忍法地蔵隠しで地蔵の後ろに隠される山城守の人権は。しかしこの忍法、月光曰く彗星の得意技とのことですが…

○三兄弟と山城守父子が合流したところにムカデラー出現! 合身したミツルギは炎を盾でブロック、空飛ぶムカデラーを火炎弾でバラバラにしますが…ムカデラーはバラバラ状態から合体、そして巻き付き攻撃! この辺りは人形アニメーションならではの攻防で良かったと思います。

○ミツルギは巻き付いたムカデラーを火炎弾のゼロ距離で引きはがし、落ちたところをぺしっと顔面を剣で叩くと…何故か雷が鳴ってムカデラー爆死。えー

○ミツルギの存在は口外しないことにした山城守。人命軽視の作戦もしないですみましたが、最初からミツルギが幕府とちゃんと連携していればこんなことには…


 江戸城に向かってくる怪獣の迎撃戦と、そのキーパースンの争奪戦という、シチュエーション的には面白いのに、なんだか別の意味で面白かった今回。分量の問題とはいえ、火薬で倒されそうな怪獣というのは、時代ものとしてはリアリティ(?)あるかもしれません。
 しかし、本作の魅力は人形アニメーションだけでなく、三兄弟の無茶すぎる忍法にもあることに、第三話にしてようやく気づきました。便利だなあ、忍法。
 …今ごろ気付いたのですが、タイトルの「悪魔の呪い」って何?


<今回の怪獣>
ムカデラー
 竜と百足を合成したような怪獣。口からの炎で幾多の城を壊滅させた。飛行能力と、バラバラになってもつながる再生能力を持つ。…江戸城まで一気に飛べなかったのだろうか。


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 「魔人ハンターミツルギ」 放映リストほか


「魔人ハンターミツルギ」(コロムビアミュージックエンタテインメント DVDソフト) Amazon

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2008.02.07

「戦国戦術戦記LOBOS」第二巻 いよいよ見逃せない作品に!

 戦国の傭兵集団「狼」の活躍を描いて、第一巻発売以来、新人離れした完成度で時代コミックファンの間で好評を博していた「戦国戦術戦記LOBOS」。その第二巻は、戸隠衆の抜け忍とその狩りを請け負った市蔵ら「狼」の面々との死闘を描くエピソードと、織田と上杉と一向衆の緊張高まる北陸において、上杉方の柿崎景家暗殺を請け負った「狼」が、伊賀の最強戦闘部隊・日隠衆と激突するエピソードの二つが収録されています。

 第一巻同様、そのクオリティは高いレベルをキープしている第二巻ですが、市蔵たちと同等以上の戦闘力を持つ忍者たちの登場によるアクション面がパワーアップしたことに加え、主人公・市蔵の過去の一端が明かされたこと――そしてそれがアクション面とも直結しているのですが――によるドラマ面の充実もあって、隙のない完成度と言えます。
(個人的には、アクション面において、最初のエピソードの相手である忍者が、時代ものとしては反則級の攻撃である市蔵の超遠距離からの精密狙撃を破った理屈が、実に忍者ものとしての説得力に溢れていて好印象)

 第一巻に比べると、バトルものとしての色彩が相当強くなってはいますが、同じ作品の中でこれだけの振れ幅を持たせられるのは、プロフェッショナルという一定の枠さえ守れば、その中でストーリーに様々なバリエーションを持たせることが可能なプロフェッショナルものの強みというものでしょう。

 また、この巻では、歴史上の人物が登場し、また物語の設定年代が明示されており、現実の歴史のうねりの中で、果たして市蔵が、「狼」がどのような役割を果たすかも、実に興味深いところであります。
 個性豊かなキャラクターたちに、クオリティの高いアクション描写とストーリーテリング、それに史実とのリンクも加わって、いよいよもって見逃せない作品になってきたと言って良いかと思います。


「戦国戦術戦記LOBOS」第二巻(秋山明子 講談社シリウスKC) Amazon

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2008.02.06

今週の「Y十M 柳生忍法帖」 残り一本でも…

 最近は逆転また逆転の「Y十M 柳生忍法帖」、油断すると色々と大変な目に遭わされる非常に殺伐とした展開が続きますが(当たり前)、今週もまた急展開であります。

 何だかもうすごい感じでよれよれになったおゆら様の登場で、果たしてどんなことになってしまうのかしら? とドキドキしたらのも束の間、あっと言う間に振りほどかれて残念…もうがっかりだよ!

 しかしこの、ほんのわずかの間があれば十分ということか、そこで動いたのは香炉銀四郎、奔ったのは彼の秘術・霞網!
 が、本当に驚かされたのはこの次の瞬間。一瞬遅れて猛然とダッシュした十兵衛の一刀は、銀四郎を、あたかも顔の傷に沿ったかのように両断! って、えええええええ

 ゲームのルールは? 先生が直接手を出しちゃだめじゃないですか! と文句を言っている場合ではないのはわかりますが、正直なところこれまであれだけか弱い女性の手で七本槍を倒すことに拘っていただけに残念な展開ではあります。
 まあ、これも原作通りの展開ではありますが(ちなみに原作では「ゆるしてくれいよ」と十兵衛が一言ほりにょたちに謝っているんですけどね)…正直、原作では一番すっきりしなかった部分だけに、ここだけはアレンジして欲しかったものです。序盤で銀四郎がさくらに執着しているようなオリジナル描写もあったので、期待していたのですが…

 それはさておき、一刀両断されたはずの銀四郎ですが…しかし、たとえ明成が死のうと会津四十万石が滅びようと、芦名一族は、自分は負けない! と最後の哄笑。まさに血笑と言うほかない壮絶な姿を見せて斃れます。いや、ある意味実に銀四郎らしいキレっぷりとしかいいようがありません。が、感心している場合でもなく、主は死してもなおも生き続けるのは霞網。その中に五人のほりにょを包んだまま…銀四郎の腕を十兵衛が落としてもなお、霞網は締まり続け、そしてその腕を自分の足下に置いて立つのは――魔人・銅伯。

 明成を人質に(って冷静に考えればヒーローのやることではないですな)銀四郎の腕を踏みつぶすよう迫る十兵衛と、その前に無言で立つ銅伯…時間こそ短いものの、壮絶な睨み合いの果てに負けを認めたのはやはり十兵衛。
 やっぱり十兵衛はヒーロー、風前の灯火となった五人のほりにょを見捨てることができるはずもありません。しかし十兵衛がここで負けを認めれば、それは同時に、ほりにょたちの最期をも意味するのですが…
 まさに最悪の展開をまた逆転することはできるのか。相手は残り一本槍となったものの勝利の感慨は薄く…さて。

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2008.02.05

「御庭番 明楽伊織」第一巻 明楽伊織、モラトリアムにもがく

 時代漫画ファンにとって、昨年の大ニュースの一つは、「御庭番 明楽伊織」の連載開始だったのではないかと思います。時代バイオレンスアクション漫画の金字塔「明楽と孫蔵」、そのビフォアストーリーが描かれることとなったのですから――
 そして、待ちに待ったその「御庭番 明楽伊織」第一巻がようやく発売されました。

 既に人間的にも技量的にもある程度完成された御庭番・明楽伊織が変態バイオレンスキンノー浪士をぶちのめしていた「明楽と孫蔵」に対し、本作はまだまだ未熟な、若き日の伊織の成長譚という性格が(今のところは)強くあります。
 時は弘化年間、海外の動乱の気配を感じつつも、まだ誰もが太平の世に暮らしていた、いわば江戸という時代のモラトリアムにあって、己の人生のモラトリアムの中でもがく伊織の姿が、本作では描かれていくことになります。

 もちろん、真っ当なもがき方が許されるわけもない森田漫画、伊織の前に現れるのは、伝説の月山忍び・荒吐の孫蔵に、明国拳法の秘伝を伝える景鶴芝といった強敵…というか恐ろしく元気で物騒な年寄りたちであります。
 「明楽と孫蔵」にも登場したこの二人が、伊織を容赦なく叩き潰す役に回るのは、前作読者としては嬉しいサービスであると同時に、大きな驚き。
 特に、前作で(それこそタイトルロールになるほど)伊織の頼もしい相棒であり忠僕であったあの孫蔵爺さんが、伊織のことを屑だの愚図だの馬鹿次男だの呼ぶ上に、ガチで殺しに来るのは、ショッキングな展開でありますが、しかしこの先、どのような出来事が二人の関係を変えていくか、胸躍るものがあります。

 ちなみに、森田節とも言うべき独特のリズム感溢れる名調子は本作でも絶好調。
「真の剣刃上知らぬ……腑抜けたガキは 遺体で父御の元へ……還す他無し――!!」
「…あのさ…死んじゃうよ? ……弟子!」「ウン……! マヌケが来てよく死ぬよ!」
など、時に物騒に、時にコミカルに戦いの場を盛り上げる台詞の数々には、思わずニンマリさせられます。

 さて――タイトルとは裏腹に、今は御庭番・明楽家の次男坊である伊織。その彼の肉親であり、越えるべき壁である父と兄が、本作には登場しているのですが、二人がどのように物語に絡んでいくこととなるのか。
 特に、本巻ラストで、それまでの謹厳実直たる姿とは異なる顔を垣間見せた兄・正継(雑誌掲載時、彼が密かにナポレオンに憧れていた描写をすっかり見落としていたのは不覚でした)がどう動くか――雑誌掲載時に読んで、私がひっくり返ったその後の展開を、早く単行本でも読みたいものです。


 …そして、角川でも双葉でも、「明楽と孫蔵」を早く再刊すべきだと思います。


「御庭番 明楽伊織」第一巻(森田信吾 角川書店チャージコミックス) Amazon

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2008.02.04

「マーベラス・ツインズ 1 謎の宝の地図」 驕児、世に出る

 武侠小説ファン、古龍ファンの間で最近(たぶん)話題だったのは、何と言っても「絶代双驕」の邦訳でしょう。
 同じ武侠小説家でも、全作品が邦訳されている金庸に比べて邦訳に恵まれない古龍の代表作の一つが遂に邦訳されるのですから――ライトノベル系レーベルから、「マーベラス・ツインズ」というタイトルで。

 いや、いかに鬼面人を驚かすを地で行く古龍作品とて、まさかこういうベクトルで驚かされるとは思いませんでしたが、しかし、完全にライトノベルなタイトルとイラストと裏腹に、内容は――訳文は――きっちりと武侠小説、まぎれもない古龍作品で、安心いたしました。
(ま、「ハンサム・シビリング」も「プライド」もどうかと思いますしねえ)

 悪徳の地・崑崙山の悪人谷で、全土で恐れられた悪人たち、その名も十大悪人に育てられたこの少年・小魚児。見かけは無垢な美少年ながら、やることなすこと破天荒で、口から先に生まれてきたようなペテンとハッタリの天才児で、悪党の上前をはねるこの大悪党が、本作の主人公であります。

 古龍の主人公は――主人公に限らず、脇役の一人一人までもがそうですが――とにかく強烈な個性の持ち主ですが、その中でもこの小魚児は相当のもの。どちらかというとオトナのイメージが強い古龍ヒーローの中でも年少とあって、かなり毛色の変わった主人公と感じます。
 もちろん、いかに年少で、そして大悪党だと言っても、そこは男の中の男を描けば右に出る者のいない古龍。どれほど無茶苦茶なことをやらかそうとも、その中に一本筋が通っている、心意気が感じられるという点では、やはり彼も古龍主人公と言えるのでしょう。

 さてこの第一巻では、育ちの地・悪人谷を飛び出してきた小魚児が、旅を続ける中で伝説の武術秘伝書の在処を示した宝の地図を巡る争奪戦に巻き込まれる様が描かれます。
 その様たるや、相変わらずの古龍節。もう超古龍。次から次へととんでもない連中が登場しては、その大半が次の瞬間に新キャラにブッ殺される一方で、ミステリ色の強い奇ッ怪な事件が発生して、その謎に主人公が挑むという古龍節は相変わらずであります。

 どちらかと言えば優等生的な金庸作品に比べれば、あまりにクセが強い古龍作品は、慣れない人はきついかもしれませんが、一度ハマってしまえばこれほど楽しいものはない。特に本作は次から次へと襲いかかる(九分九厘自業自得ですが)難局に、武芸の腕はイマイチな小魚児が、舌先三寸でいかに立ち向かうかという興味もあり、タイトルの「ツインズ」の片割れである、こちらは君子然とした美少年・花無缺が登場するラストまで、一気に楽しく読ませていただきました。

 読む前は些か心配であった訳文の方もまずもって問題はなし。
 調べてみれば翻訳者の川合章子氏は、ご自分のサイトでオリジナルの武侠小説を発表されているほどの相当にお好きな方のようですので、そういった意味では問題はないかと思いますし、むしろ大いに期待したいと思います。

 原書にはあった悪人谷のシーンがオミットされているという話もあり、不安がないわけではないですが、しかし滑り出しとしては文句なし。武侠小説ファン、伝奇小説ファンであれば、タイトルやイラストに怖気をふるわず、まずは読んでみていただきたい作品です。


「マーベラス・ツインズ 1 謎の宝の地図」(古龍 光栄GAME CITY文庫) Amazon

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2008.02.03

「鞍馬天狗」 第三回「石礫の女」

 「鞍馬天狗」第三回は、鞍馬天狗と新選組の全面対決…でありつつも、一人の不幸な女性の生き様を描いた一篇。
 黒谷友香嬢演じる石礫のお喜代の、険がありながらも儚い美しさが印象に残りましたが、それだけではない、意外な発見があった回でした。

 ある時は巧みに言い寄って浪士を罠にかけ、またある時は石礫で大の大人を苦しめ――親を亡くして山賊に育てられ、幼い頃から石礫投げを仕込まれたという石礫のお喜代。
 何だか「水滸伝」にでも出てきそうな女傑ですが、しかし彼女が新選組のために動くのは、恋人が新選組の――それもあまり出来の良くない――隊士であったため…と来ると、お喜代とこの隊士・藤倉の逃避行でも描かれるのかと思いきや、さにあらず。
 藤倉はあっさりと刃傷沙汰で命を落とし、残されたお喜代は…という彼女の去就が物語の中心となります。

 不幸な生い立ちから、自分に近づいた男は皆死ぬと思い詰めた彼女を救ったのは、天狗…ではなく、倉田天膳の方。ここで彼が口に上らせた「私は不死身だ」という言葉を、クライマックスの殺陣の中で天狗から言わせることにより、天狗の正体を彼女に気づかせる構成も見事なのですが、個人的に強く印象に残ったのは、ここで天膳が、彼女の生い立ちを自分のそれと重ねて語るシーンでした。

 お喜代同様、自分も周囲の者全てを失った天涯孤独の身だと語る天膳=小野宗房。確かに、言われてみれば彼は、父を失い、継ぐべき家を奪われ、また育ての親も、仇たる叔父すらも、何もかも失った存在です(白菊さんはこの際目をつぶるということで)。…だがしかし、それによって自由を手に入れたと彼は続けます。
 ――鞍馬天狗と言えば「自由人」というイメージが非常に強いのですが、その自由の淵源を、この宗房の境遇に重ねてみせるとは、全く驚かされました。宗房=天狗というのは本作独自のアレンジであり、一体それが何のためなのか、正直今までよくわからなかったのですが、なるほどこういうことだったかと大いに感じ入った次第です。
 このアプローチの真価は、これからのドラマ展開を見なければわかりませんが、それを見極めるのが楽しみになってきました。

 …しかし、今回からしばらく脚本を担当する川上英幸氏は、円谷作品で多くの脚本を手がけたあの川上英幸氏でしょうか。そうだとしたら、こちらもまた楽しみであります。


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2008.02.02

「極東綺譚」第三巻 明治が生んだ異形の海

 明治を舞台とした異形の海洋冒険奇譚「極東綺譚」の最終第三巻は、第二巻のラストから引き続き、東京のど真ん中で起きた怪死事件に民俗学者・九鬼銃造が挑みます。
 「じゃらくらするなよ べらぼうめ」と意味不明な言葉を残し、町中で突如ミイラと化した男の謎を追う銃造たちの前に現れたのは、
彼と同じ亀鼈の入れ墨を持つ異形の者たちと、冥海の生物たち。
 人里離れた地であれば知らず、明治も数十年を過ぎた帝都・東京のど真ん中に、異形の海に連なる存在が登場するというのは、なんと申しますか、そのシチュエーションだけで胸躍るものがあります。

 死んだ男が帝国海軍とともに研究していたという「帝国の永遠を約束する神器」とは。銃造らを襲った怪人と冥海の正体は。乾土なき義人たちとは。そして「じゃらくらするなよ べらぼうめ」の意味とは――
 個々を見たときには、どのようなつながりがあるものか皆目見当がつかなかったそれぞれの要素が、一つにつながったときに描き出されるのは、海外に向けて拡張していこうとする大日本帝国が生み出した、おぞましくも哀しい闇。

 考えてみれば、鎖国政策を取っていた江戸時代から一転、海外を目指した明治時代以降の日本は、海という存在に対して、維新を境に正反対の態度を取るようになったとも言えます。
 それを考えれば、異形の海・冥海を物語の中心に据えた本作が、明治時代を舞台としているということの必然性が――冥海が明治の日本に出現した意味が――理解できるような気がしますし、それが今回のエピソードの大きな収穫でした。

 しかし、誠に残念なことに、本作はこの第三巻で、それもどう見ても無理矢理なところで――構造的には円環となっているのが面白くはありますが――完結となっています。
 テーマ的にも題材的にも、まだまだいくらでもユニークな物語を展開できるだけに、実に勿体ないとしか言いようがありませんが――束の間、浮き世に現れて消えていくというのも、冥海を描いた物語にはふさわしいのかもしれません。


「極東綺譚」第三巻(衣谷遊 マガジンZKC) Amazon

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2008.02.01

「モノノ怪」第一巻 そのままではなく、そのものの世界

 昨年のTVシリーズとほぼ平行する形で「ヤングガンガン」誌で連載開始したのが、この漫画版「モノノ怪」。
 「モノノ怪」と言いつつ、内容はそのパイロット版とも言うべき「怪 AYAKASHI」の「化猫」なのがややこしい…というのはさておき、あの、アニメならではの作品世界を、巧みに漫画化してしまった驚きの一作です。

 原作をご覧になった方には言うまでもないお話ですが、アニメ「モノノ怪」そして「化猫」は、特にそのビジュアル面において、アニメならではの、アニメでなければ成立しないような作品。
和紙を貼ったような質感の、極彩色のテクスチャーで彩られた空間と、それを映し出す構図と緩急付けた動き、そしてセリフ回し。原作の魅力を、漫画で、しかも基本二色刷りで再現し得るのか?

 その答えはイエス――本作を見れば、そう答えるしかありません。
 基本精密に、時に荒々しく描かれる画力の確かさに加えて、その場面場面を切り取ってみせる構図の妙。そして何より、動きを描き出すのにあたり、その動作と動作の間を省略せざるを得ないという漫画の制約を逆手に取ったかのような動きのリズム…
 原作そのままではない。しかし原作そのものとして感じられる世界が、ここにはあります。

 連載開始時には、作者が本作の直前まで同誌で「天保異聞 妖奇士」の漫画版を連載していたため、単にファンタジックな和モノを描けるから、という理由のチョイスかと思ってしまいましたが、それが全くもって自分の不明だったと言うほかありません。

 尤も――あえて欠点を探すとすれば、原作の展開に忠実に、あまりにもじっくりと描写を重ねているが故に物語のテンポがかなり遅い点でしょうか。
 本作が雑誌連載ということを考えれば――単行本でまとめて読む分には全く問題はないのですが――これはマイナス点と言わざるを得ません。
 もちろんこれは上で述べた原作の再現性の見事さとは表裏一体であり、やむを得ない点ではありますし、これが些細な瑕疵と言えるほど、本作が魅力的なのは間違いありません。

 これから物語はいよいよ後半に入り、隠された残酷な真と理が明らかにされることになりますが、さてそれが如何に描かれるのか。楽しみにするとともに、できれば、「化猫」以外のエピソードも見てみたいものだと思っている次第です。


「モノノ怪」第一巻(蜷川ヤエコ スクウェア・エニックスヤングガンガンコミックス) Amazon

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