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2008.02.19

「諸怪志異 異界録」「壺中天」 諸星版志怪譚の味わい

 スケールの大きい伝奇SFに、日常にぽっかり空いた異界を垣間見させるホラー、さらには不思議な味わいの幻想ものまで、実に幅広いジャンルの作品を発表している諸星大二郎先生ですが、中国を舞台とした怪奇譚・幻想譚も得意としています。
 この「諸怪志異」シリーズの「異界録」「壺中天」はまさにその系譜に属する作品。シリーズタイトルから察せられるとおり、実に様々な怪異の姿が、作者独特の筆で描き出されています。

 シリーズ第一巻である「異界録」には、表題作を含む全十一作が、第二巻の「壺中天」も、同じく全十一作が納められていますが、このエピソード数の多さと比例するように、内容の方も実にバラエティ豊かな作品ばかり。グロテスクで肌の粟立つような怪異譚から、怪力乱神入り乱れる妖術譚、不可思議でちょっと可笑しな幻想譚に、可笑しさ100%のすっぽ抜けた味わいのコメディまで…どれを取っても、志怪の世界を愛する者にとっては実に楽しく味わい深い作品となっています。

 考えてみれば、中国の志怪譚で描かれる、伝奇色・民俗色濃厚な怪異と、生々しくもどこかすっとぼけた人間描写は――些か牽強付会のきらいはあるかもしれませんが――どちらも作者が得意とする要素。そういった意味では、元々諸星作品と中国の志怪譚の相性は良いわけで、なるほど、この組み合わせの奇妙なまでの違和感のなさはそのためか、と感心した次第です。

 ここでは一作一作は取り上げませんが、一作品だけ取り上げるとすれば、やがり第一巻の表題作「異界録」でしょう。
 山中に消えた息子を捜しにやって来た男が、迷い込んだ先のまさしく「異界」としか言いようのない世界で出会ったモノたるや…これがまた、そのスケールの大きさと恐るべき力もさることながら、何よりもその背後にある生命幻想/生命妄想――生命の根元たる存在の提示、もしくは生命の融合・変容といった――が、実に「諸星している」存在。
 ある意味、最も作者らしい志怪譚ではないかと感じた次第です。

 なお、収録作の半数近くには、狂言回し的存在として、見鬼の少年・阿鬼(燕見鬼)とその師匠・五行先生が登場し、ユーモラスな味つけとなっていますが、続くシリーズ第三巻・第四巻ではこの燕見鬼が主人公として本格的に活躍することになります。
 こちらはこちらでまた趣の異なる作品となっております故、稿を改めて取り上げることとしたいと思います。


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