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2008.02.02

「極東綺譚」第三巻 明治が生んだ異形の海

 明治を舞台とした異形の海洋冒険奇譚「極東綺譚」の最終第三巻は、第二巻のラストから引き続き、東京のど真ん中で起きた怪死事件に民俗学者・九鬼銃造が挑みます。
 「じゃらくらするなよ べらぼうめ」と意味不明な言葉を残し、町中で突如ミイラと化した男の謎を追う銃造たちの前に現れたのは、
彼と同じ亀鼈の入れ墨を持つ異形の者たちと、冥海の生物たち。
 人里離れた地であれば知らず、明治も数十年を過ぎた帝都・東京のど真ん中に、異形の海に連なる存在が登場するというのは、なんと申しますか、そのシチュエーションだけで胸躍るものがあります。

 死んだ男が帝国海軍とともに研究していたという「帝国の永遠を約束する神器」とは。銃造らを襲った怪人と冥海の正体は。乾土なき義人たちとは。そして「じゃらくらするなよ べらぼうめ」の意味とは――
 個々を見たときには、どのようなつながりがあるものか皆目見当がつかなかったそれぞれの要素が、一つにつながったときに描き出されるのは、海外に向けて拡張していこうとする大日本帝国が生み出した、おぞましくも哀しい闇。

 考えてみれば、鎖国政策を取っていた江戸時代から一転、海外を目指した明治時代以降の日本は、海という存在に対して、維新を境に正反対の態度を取るようになったとも言えます。
 それを考えれば、異形の海・冥海を物語の中心に据えた本作が、明治時代を舞台としているということの必然性が――冥海が明治の日本に出現した意味が――理解できるような気がしますし、それが今回のエピソードの大きな収穫でした。

 しかし、誠に残念なことに、本作はこの第三巻で、それもどう見ても無理矢理なところで――構造的には円環となっているのが面白くはありますが――完結となっています。
 テーマ的にも題材的にも、まだまだいくらでもユニークな物語を展開できるだけに、実に勿体ないとしか言いようがありませんが――束の間、浮き世に現れて消えていくというのも、冥海を描いた物語にはふさわしいのかもしれません。


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