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2008.02.11

「幽王伝 陸奥剣鬼連合」 死者と生者を分かつものは

 東雲藩での仏陀蒼介と冥府流の御前試合は、単なる剣術勝負の域を越え、将軍家指南役を巡る暗闘に繋がっていく。幕府も老中を、そして柳生十兵衛を送り込む中、柳生刑部が、おえんが、陣吾が、それぞれの思惑を秘めて暗躍する。そして決戦の日、蒼介の前に現れた冥府流代表とは…

 菊地秀行先生の長編時代伝奇ノベル「幽王伝」も、遂に完結です。好漢・仏陀蒼介と冥府流との決戦をラストに控えて、一巻丸々決戦前夜とも言うべきこの第三巻…これまでの激闘で冥府流剣士団はその姿を減らしていったものの、それを補うかのように(?)あの柳生十兵衛が登場。さらにそのバックには、江戸初期最大の謀臣とも言うべき土井大炊守が控え、東北の一藩に始まった戦いが、ずいぶんとスケールアップを見せることになります。

 もちろん、これまでのレギュラー陣も健在ですし、さらに特別ゲストとしてあの針術総帥のご先祖様も登場し(本当にゲスト程度なのが勿体ない)、善魔入り乱れての複雑怪奇な人間模様は、これはもう伝奇ものの醍醐味の一つかと思います。

 しかし――全く正直なところを申し上げれば、本作、単独の時代伝奇アクションとしては知らず、「幽王伝」の、それも完結編として面白かったかと言えば…であります。
 御前試合という決まったゴールに向けての時間(分量)が多すぎたり、登場人物の交錯が物語をドライブする方向に働いていなかったりと、原因は幾つか思いつきますが、最大の理由は、結局、死者の剣たる冥府流の剣と、それを打ち破る生者の剣たる蒼介の剣を、明確に描き切れなかった…その点に尽きるかと思います。
(冥府流総帥がありえないくらい小物だったのは、あれはもうネタキャラだったとおもうことにします)

 蒼介の、飄々とした、それでいて熱いキャラクターは最後まで魅力的でありましたし(数こそ多くないものの、好漢主人公を描かせたら、菊地先生は相当の名手かと思います)、何よりも、決戦の場に現れた冥府流の代表者が、意外でありながら、成る程この人物なら、いやこの人物でなくてはと思わされる者だった点など、非常に面白くはあったのですが…

 死者と生者を分かつものは、希代の伝奇の名手をもってしても扱いが難しいものであったか…というのは、かえって失礼に過ぎるでしょうか。


「幽王伝 陸奥剣鬼連合」(菊地秀行 ハルキノベルス) Amazon

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