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2008.03.19

「北斗秘拳行」 平安伝奇バイオレンスの嚆矢

 暗花十二拳との死闘を終え、歌枕を訪ねて出羽へ向かう西行。しかしそこでは、七つの寺社に封じられた平将門の七宝剣を狙い、奇怪な秘術を操る淫海・妖海・幽海の三人の妖人が暗躍していた。瀕死の山伏を救ったことから戦いに巻き込まれた西行は、宝剣を守るために死闘を繰り広げるが…

 来年の大河ドラマ原作作家たる火坂雅志先生の時代伝奇小説を発掘しようシリーズ。作者のデビュー作「花月秘拳行」の続編であります。
 西行法師は、実は藤原氏に代々伝わる拳法・明月五拳の使い手だった! …という、見た瞬間にバールのようなもので後頭部を殴られたような衝撃が走る設定の下に展開する「花月秘拳行」シリーズですが、本作で西行が立ち向かうこととなるのは、将門の七本の宝剣を一手に納めてこれに秘められた謎を解き放とうという妖術使いたち。かくてバイオレンスでエロスな古き良き(?)伝奇アクションが展開されることとなります。

 明月五拳の奥義を極め、武術では平安最強の西行に、武術の域を超えたような妖術師をぶつけてくるのは、なるほど考えたな、という印象ですが、さらにその背後の黒幕が実は…という展開が実に面白い。
 正直なところ、勘の良い方であれば正体はすぐにわかるかと思いますが、しかしそれがまたある意味拳法ものの王道とも言える展開で、これはこれで実によろしい。
 もちろんアクションだけではなく、本シリーズの特色の一つである、和歌に隠された謎解き――言うまでもなくこれは西行の歌人としての顔を意識してのものですが――も健在で、何も考えずに読む分には実に楽しい作品であります。

 もっとも…正直なことを言えば、アクション、和歌ミステリの双方とも、第一作に比べれば及ばない面はあるのですが、これは第一作の完成度が高すぎたと言うべきでしょう。
 何よりも今振り返ってみて感心するのは、本作が、本シリーズが、伝奇作品が描かれるにしても、格調高い――という言い方は誤解を招くかもしれませんが、どこか大人しげな作品がほとんどだった平安ものの世界に、いかにも九十年代らしいバイオレンスアクションのテイストを取り入れてみせたことであります。
 現在でも富樫倫太郎が目立つくらいの、この平安伝奇バイオレンスというジャンルを、遙か以前に展開していたそのセンスこそ驚くべし、と言うほかありません。


「北斗秘拳行」(火坂雅志 廣済堂文庫) Amazon

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