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2008.03.22

「自来也忍法帖」 やられた! の快感

 嫡子が将軍の眼前で精汁を垂れ流して悶死するという怪事に見舞われ、家斉の子で知的障害者の石五郎を、藩主の娘・鞠姫の婿にすることとなってしまった藤堂藩。だが、怪事の黒幕であり、お家簒奪を狙う忍者・服部蛇丸は、鞠姫と石五郎をも暗殺せんと企んでいた。蛇丸の魔手が二人に迫ったとき、白衣の忍者・自来也が登場、蛇丸一党に敢然と戦いを挑むのであった。

 山風作品で、颯爽たるヒーローの大活躍とハッピーエンドを望むのは、正直なところないものねだりも甚だしいお話ではありますが、しかし、決して皆無ではありません。
 本作はその数少ない例外。上記の通り、お家簒奪を狙う悪人に立ち向かう神出鬼没の覆面ヒーローというのは、これはもう典型的な時代活劇ですが、もちろんそこは山風、一筋縄ではいかない作品となっています。

 何せ、物語の中心人物の一人である石五郎は、将軍家斉の第三十三子という毛並みの良さながら、しかし、少年期の体験が元で、少々おかしくなってしまった人物。言葉もまともに発することのできない人物で、いやはや、ちょっとどころではない危険球であります。
 その一方で、実にヒーローらしいヒーローとして大活躍するのが、覆面の忍者・自来也。ヒロインの危機にどこからともなく現れるその姿は実に格好良いのですが、しかし本作のキモは、その活躍以上に、誰も知らない覆面の下のその素顔の謎であると言えます。

 この手のヒーローものでは、一番それらしくない人物が正体というのがお約束ですが、しかし、そんなこちらの安直な予想をきっちりと裏切るような展開が用意されているのはやっぱり山風先生ならでは。
 いったい誰が自来也なのか? という謎に、様々な「容疑者」が提示される辺りの呼吸は実にミステリ的で、さすがは時代小説かである以前にミステリ作家であり、そしてかつて角田喜久雄先生の「妖棋伝」で怪人縄いたちの正体に興奮したという山風先生ならでは、と感じます。
 さすがに終盤にはその正体もはっきりと見えてくるのですが――しかし、ラストでその正体の人物が口にする言葉を目にしたとき、そのミステリ的フェア精神に、誰もが「やられた!」と言いたくなることでしょう。

 と、自来也のことばかり書いてしまいましたが、本作のもう一つの魅力は、ヒロイン鞠姫の存在でしょう。
 気位が高くパワフルなじゃじゃ馬娘というのは、ある意味非常に典型的なキャラクター。余人が書けばよくあるキャラで終わってしまいそうですが、しかしそこはヒロインらしいヒロインを書かせると実は抜群にうまい山風先生、頑なだった鞠姫が徐々に柔らかい素顔を見せはじめ、最後にはメロメロにデレる様は実に楽しく――ラストを爽快かつ微笑ましいものとしています。


 実は山風先生の自己評価では、あまり高い点がついていない本作、その理由もわからないではないですが、しかし、やはり面白いものは面白い。
 未読の方は是非手に取っていただき、「やられた!」の快感を味わっていただきたいものです。


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コメント

この作品は以前紹介されていた「夢源氏剣祭文」のコミック版と一緒に三田様のアフィリエイト経由で購入させてもらいました。

確かにラスト、山風流ハピーエンド?が味わい深くて良いですね。
とはいえ、最近読んだ「銀河忍法帖」の最後のところで号泣してたりもするんですが。
>涙腺弱い私。

山風作品はまだ少々未読作品がありますのでこれからもまだ楽しめそうです。

投稿: まさ影 | 2008.03.23 21:28

楽しんでいただけたようで何よりです。
「銀河」のラストも、別のベクトルで良いですね。次は「忍法封印いま破る」をぜひ。ラストはまた別の意味で印象的です。

というか山風作品で後味がいいラストって、正直数えるくらいしかないような…インパクトはどれもありますけどね(苦笑)

投稿: 三田主水 | 2008.03.24 00:57

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