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2008.03.30

「剣侠」 奇想の中の人間観察

 甲源一刀流開祖・逸見多四郎の弟子でありながら、邪悪な性格から破門された水品陣十郎。父を陣十郎に殺された鴫澤主水と婚約者の澄江、そして陣十郎に苛まれていた美女・源女から源氏代々の財宝の存在を知った剣豪・秋山要介らは木曾に向かう。木曾で待ち受けていた複雑怪奇な因縁と事件に、陣十郎と主水、澄江は様々に翻弄されるが…

 国枝史郎が作家生活の後期に執筆した長編作品の一つであるこの「剣侠」は――源頼義・義家にまつわる黄金伝説が登場する程度で――伝奇性は低めではありますが、時代小説としてみた場合にはまず水準の作品。国枝お得意のフィールドである木曾の山中を舞台とし、敵討ちに財宝探し、縄張り争いに恋の鞘当てと、時代娯楽小説の様々な要素を投入した内容で、なかなか楽しむことができます。

 何よりも(今更ながらに)感心したのは、一寸スラップスティックめいた騒乱の中で展開するキャラクター同士の絡み、そして剣戟シーンの面白さ。
 ドミノ倒し、というより雪崩式に、少しのきっかけから騒動が加速度的に大きくなっていく中で、登場人物たちの出会い、別れ、争う様は、元々狂躁的な部分のある国枝の文体と相まって、何ともいえぬドライブ感が感じられます(特に後半、陣十郎の刀の一閃がもとで、木曾の馬市が阿鼻叫喚の巷と化すシーンは見事)。

 さて、そんな本作でもっとも印象に残るのは、陣十郎のキャラクターです。本来であれば単なる悪役以外のなにものでもない彼ではありますが、しかし、その歩んだ道のりは実に皮肉で、かつ人間的な迷いに満ちたもの。
 ファンであれば良くご存じかと思いますが、赦しを求めて彷徨する殺人鬼、というのは国枝作品にしばしば登場するモチーフであります。陣十郎もまた、その系譜に属するものではありますが、しかし、たとい一時的とはいえ、彼が仏性を示し、不倶戴天の間柄であるはずの主水や澄江と交流する様からは、人間という存在の面白みと哀しみが強く伝わってきます。

 幸か不幸か、どうしても伝奇や幻想といった側面から語られがちの国枝史郎ですが、その奇想の根底に、本作に見られるような人間観察があることは、心の片隅に置いておいてよいのではないでしょうか。


 まあ、やっぱり今回も結末はメタメタなんですが(比較的マシな方ですけどね)


「剣侠」(国枝史郎 未知谷「国枝史郎伝奇全集」第4巻ほか所収) Amazon

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