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2008.03.06

「花月秘拳行」 衝撃のデビュー作!?

 藤原貴族の間に連綿と和歌の裏口伝として伝えられてきた「明月五拳」の極意を体得した西行は、もうひとつの秘拳「暗花十二拳」の謎を求めて、歌枕を訪ねる陸奥への漂泊の旅に出た。その行く手には、恐怖の和歌地獄と大和朝廷に圧殺された蝦夷の怨念が待ちかまえていた…

 来年の大河ドラマの原作者であるところの火坂雅志先生の過去作品を振り返ろうシリーズ。第一弾はやはりデビュー作たる「花月秘拳行」を取り上げるべきでしょう。

 これまでこのサイトで何回も取り上げている本作ですが、やはり基本アイディアが素晴らしすぎると言わざるを得ません。
 藤原氏の間で密かに伝えられてきた伝説の秘拳(というだけで目頭が熱くなりますが)を、あの西行法師が! という設定を初めて目にしたときの衝撃を、昨日のことのように思い出します。

 確かに西行といえば、色々とエピソードには事欠かない人物。伝奇的には何と言っても東郷隆の「人造記」などで取り上げられている人造人間製造話があるわけですが、あえて(と言わせていただきましょう)そこを外して、拳法を持ってくるとは…!
 おそらくは、このチョイスの背後には、作者が編集者時代にかの菊地秀行先生と繰り広げた古武術探求紀行(この模様を収めた「ザ・古武道 12人の武神たち」がまた名著なんですが)があるのだろうと思いますが、いずれにせよ、それぞれの秘拳のネーミングの妙や、敵味方含めて拳法の奥義に和歌が密接に絡んでくる点といい、一見荒唐無稽な題材を、いかにも「らしく」みせる工夫・技が実に巧みで、新人離れしたものを感じます。

 そして本作が、単にインパクト一発勝負の作品に終わっていないのは、敵方の設定の巧みさがあります。
 「明月」に対する「暗花」というネーミングだけでもシビれますが、その十二拳――雷拳・風拳・嶺拳・影拳・鬼拳・石拳・波拳・枯拳・磯拳・露拳・そして闇拳(数が十二に足りないのは失われた流派も存在するため)――が、それぞれが大和朝廷に恨みを持つもの、大和朝廷のために涙を呑んだ者の伝説に彩られた地で待つというのがたまらない。
 京の藤原氏という、いわば支配者の間に伝わる拳に対置されるのが、東北のまつろわぬ者・異形の者の間に伝えられてきた拳というのは、コロンブスの卵的な部分もありますが、しかし、実に胸躍る対決のシチュエーションであります(その、藤原氏側の代表選手となる西行が、立ち位置的に権力側ではアウトサイダーであるのも興味深い)。

 もちろん、そのテーマを十全に消化しきっているかは微妙であり、また荒削りな部分も様々にありますが、クライマックスの和歌地獄(このネーミングもたまりませんな!)の面白さも含めて、決して忘れられてはならない名品だと信じている次第です。


「花月秘拳行」(火坂雅志 廣済堂文庫) Amazon

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