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2008.04.16

「寛永無明剣」 無明の敵、無明の心

 北町奉行所の同心・六波羅蜜たすくは、大坂の陣の残党を追う中で、不可解にも柳生宗矩配下の柳生剣士たちの襲撃を受ける。その背後に巨大な陰謀の影を感じたたすくは捜査を開始するが、さらに奇怪な術を操る一団までもが登場し、たすくに迫る。そして遂にたすくが知った真実――それは人類そのものの存亡に関わる巨大な秘密であった。

 光瀬龍先生の時代小説については、当方でも何度か取り上げているところですが、その中でも一、二を争うくらい好きな作品が本作(と「夕ばえ作戦」)であります。

 北町同心、その実は松平伊豆守の腹心の部下を主人公とした本作は、人間一人はおろか集落そのものをもたやすく葬り去り、そして幕府要人たちといつの間にかすり替わっているという、姿無き強大な敵との戦いをサスペンスフルに描いて、時代小説としても非常に面白いのですが、しかし、それだけにとどまらないのはもちろんのこと。

 中盤を過ぎで、敵の正体、さらにその目的が明らかになっていく際の、一種の世界崩壊感覚とでも申しましょうか…確たるものと信じ込んでいた世界が、実は舞台の書割にすぎなかった、とでも評すべきすさまじいどんでん返しには、レーベルや作者からある程度の内容の予測をしていても、やはり驚かされます。
 もちろん、その衝撃も、書割という表現が失礼にあたるくらい、時代小説として良くできているからこそではありますが…

 そして――たすくが知ることとなった事件の背後に潜む真実の、圧倒的という言葉も空しくなるほど途方もないスケールと、それでいて一片の詩情すら感じさせる虚無感と悲哀は、まさに光瀬節。
 「無明」と言うほかない運命を変えるために襲い来る敵を、迎え撃つたすくの心もまた「無明」。まさに「寛永無明剣」とはこのことであったか! と唸らされると同時に、ラストに描かれる人と人との当たり前の繋がりの一つが――敵の正体を考えれば皮肉ですらあるのですが――小さいながらも希望の灯火のように感じられたことです。

 正直なところ、本作をネタバレせずに紹介するのは、魅力の半分以上を伝えることができないようにも思いますが、未読の方に、この途方もない衝撃を味わっていただくために、隔靴掻痒の思いを堪えて記す次第です。


 ちなみに――ムネノラー的には本作の宗矩の活躍は必見であります。何と言っても人類の命運を背負った戦士!(本当)
 だというのに、ラストバトルがほとんど一軒家プロレスなのは何とも…ある意味期待通りと評すべき乎。いや○○なんですけどね。

「寛永無明剣」(光瀬龍 ハルキ文庫) Amazon

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