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2008.04.21

「おぼろ秘剣帳」 ステップアップ期の王道作

 京で放蕩無頼の暮らしを送る美青年・朧愁之介。千利休の妾腹の子に生まれながらも千家とは縁を切り、我が道を往く愁之介は、次々と奇怪な事件に巻き込まれ、秘剣「影の灯火」を振るうこととなる。そして数々の事件の果てに、彼が知った父の死の真相は…

 火坂先生の過去作品を振り返ってみようシリーズ、今回は火坂先生には意外と珍しい架空の主人公によるエンターテイメント剣豪もの「おぼろ秘剣帖」。
 最初はトクマノベルスから「戦国妖剣録」のタイトルで刊行され、それから約十年後に「おぼろ秘剣帖」のタイトルで廣済堂文庫から、そして現在では「おぼろ秘剣帳」(ってややこしい変化だな)として学研M文庫で刊行されている作品です。

 あらすじから、あるいは主人公のネーミングから伝わってくるように、本作は紛れもなく娯楽時代小説の王道をいく作品。現在であれば、まず間違いなく文庫書き下ろし時代小説の形で発表されるであろう作品です。

 内容的にも、良くも悪くもこのジャンルの典型的な作品ではありますが――火坂先生もこういう作品を書いていたのだなと、ファンのくせして今更ながらに感心――しかしデビュー以来のアベレージヒッターぶりは本作でも健在。武田信玄の隠し金、千利休の呪詛が込められた茶器、そして千利休自身の死とその正体にまつわる秘事にまつわる愁之介の冒険は、時代劇ファンならば安心して楽しめるものかと思います。ちょっと利休の正体は黄算哲が入っていますが。
(いま読み返してみると、舞台の京都をはじめ、戦国商人や美術品など、火坂作品ではお馴染みの要素がいくつも見られるのも楽しい)

 さて、娯楽時代小説としては極めて真っ当(すぎる)本作ですが、しかし、廣済堂文庫の解説で細谷正充氏が指摘しているように、当時の火坂先生にとっては、新たなるステップと言うべき作品。それまで、「花月秘拳行」シリーズ、「骨法」シリーズ(時代を感じますなあ)といった、剣ならぬ拳を武器とする主人公という、時代小説のメインストリームからちょっと外れたラインの作品がほとんどだった先生が、王道の時代小説に着手した、まさにその時期の作品なのです。
 その後、火坂先生は、「柳生烈堂」シリーズや「霧隠才蔵」シリーズといったエンターテイメントシリーズを次々と発表し(「神異伝」という異色中の異色作もありますが)、そしてさらに現在の歴史小説へと移行していくわけですが、その最初の移行期、ステップアップの時期の作品と考えると、なかなか興味深いものがあるのではないでしょうか。
(ちなみに、以前にも似たようなことを書きましたが、本作が「おぼろ秘剣帖」として加筆修正ののち再刊された時期は、その次の、歴史小説への移行期に重なっているというのが、さらに面白いお話かと思う次第です)


「おぼろ秘剣帖」(火坂雅志 学研M文庫) Amazon

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