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2008.04.26

「震撼の太刀 織江緋之介見参」 一歩踏み出した頼宣像

 刺客の手から、四代将軍家綱を救った緋之介。自らの陰謀を潰した緋之介に対し、堀田正俊は新たに大奥別式女を刺客として送り込む。一方、御三家に伝えられる村正を巡って繰り広げられる暗闘。盟友・水戸光圀の妹であり、己の婚約者でもある沙弓の手にその一つがあると知った緋之介は、彼女と村正を守らんとするが…

 織江緋之介見参シリーズ第六弾は、前作「果断の太刀」を受けての後編とも言うべき内容。物語が五代将軍位を巡る暗闘にシフトしていく中で、前作で明かされなかった、御三家と織田家に伝えられる村正に秘められた秘密が明かされることになります。
 生まれといい剣技といい、上田作品の主人公の中では、かなり、いや非常に恵まれた部類に入る緋之介。しかし、そんな彼であっても、次代の将軍位、いやそれどころか徳川将軍家の正当性を揺るがす大秘密を巡る暗闘においては、ちと分が悪いようで、今回も苦闘を強いられます。

 その一方で、ある意味緋之介以上の活躍を見せる、本作の陰の主人公というべきは、徳川頼宣であります。頼宣公と言えば、時代劇においては、立ち位置的に、天下を密かに狙う野心家、陰謀家として描かれることが多い人物ですが…本作においては、そのイメージを踏まえつつも、一歩踏み出した人物像が描かれています。

 戦国時代最後の生き残り、家康の子として強烈な自負心を持ち、若き日は天下に強烈な野心を燃やした…そこまでは従来の頼宣像ですが、本作における、晩年に近づいた頼宣は、その野心を燃やす中で、将軍位の先にあるもの、平時における将軍という存在の意味を知ってしまった者として、一種達観した存在として描かれています。
 ほとんどの作品のベースに、権力者同士の暗闘というものが据えられている上田作品。その中にあって、一度はその渦中にありながらも、そこからある意味自由な存在となった頼宣は、実にユニークな存在であり、権力に真っ向から相対する主人公とは、また別の角度から権力というものを見ているキャラクターであります。

 その頼宣だからこそ、物語のラストにおいて、村正に秘められた恐るべき秘密――この秘密、派手さはないものの、順逆の太刀という村正の在りようと、儒学を根本理念とする徳川幕府の在りようを対比すれば、なかなか趣深いものがあります――の正体に気づくことができたのでしょう。

 将軍の、言い換えれば権力の座のはかなさに気づいてしまった男なればこその視線で見抜いてしまった徳川家の正体。それを知らされた光圀が、そしてもちろん緋之介にどのような運命が待つのか――毎度のことながら、次の展開が気になります。


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