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2008.05.06

「真田昌幸 家康狩り」第1巻 真田痛快伝序章

 天文十六年、身は純白、眼は赤い啄木鳥の出現とともに、真田幸隆に三男が誕生した。真田家の瑞兆と共に生まれたその運命の子に、幸隆は源五郎と名付ける。それから四年、宿敵・村上義清が守る難攻不落の戸石城を、幸隆は道みちの者たちと共に攻めようとしていた。その中には、数え五歳の源五郎、後の昌幸の姿があった――

 朝松健先生久しぶりの時代もの単行本は、「真田昌幸 家康狩り」。真田昌幸は、言うまでもなく真田幸村の父であり、息子ともどもさんざん徳川家康を苦しめた戦国大名ですが、さて「家康狩り」とは…

 朝松作品で「真田」といえば、すぐに思い出されるのが、時代伝奇の名品、「真田三妖伝」「忍・真田幻妖伝」「闘・真田神妖伝」の三部作ですが、あちらは大坂の陣という江戸時代初頭を舞台としていたのに対し、こちらでは戦国時代真っ盛りの時期が舞台。昨年の大河ドラマでも活躍した真田幸隆の三男として昌幸が生まれた場面から物語は始まります。

 ここで冒頭から目を引くのは、真田家が、「道みちの者」の大檀那、庇護者として活動していたという設定です。
 土地に縛られることなく諸国を自由にさまよう者――巫女・修験者・琵琶法師・遊芸人といった人々の存在は、時代小説の世界では、隆慶先生の「吉原御免状」などで取り上げられましたが、まだまだよく知られているとは言いがたい存在。これに注目して、後世に伝わる真田勢の神出鬼没の活躍の原動力とした点に、作者の着想の妙があります。
(ちなみに、この設定は本作が初めてではなく、上記の真田三部作においても既に描かれているものであります)

 しかし――それ以上に私が唸らされたのは、本作で、この道みちの者にまで、戦国時代の「下克上」の波が押し寄せる様が描かれている点です。
 アウトローである彼らですが、しかし世間の法に護られぬ存在であるからこそ、彼らなりの厳しい掟があるというのは頷ける話。しかし下克上の名の下に、己の欲望を満たすためだけに行動する者がいたとしたら…
 自由の民として描かれることの多い彼らの世界においても下克上が存在したというのは、ドラマとして面白いのはもちろんのこと、戦国時代の――室町時代末期の秩序破壊の風潮の激しさを示すものとして、実に効果的に感じられます。
 室町の混沌を描かせたら当代随一の朝松室町伝奇ですが、本作も――妖術や怪異を用いなくとも――その一つとして見事に成立していると感じた次第です。

 さて、道みちの者のことばかり取り上げてしまいましたが、本作の主題はもちろん真田昌幸――源五郎とその父・幸隆の痛快な活躍ぶり。奇想天外かつ極めて合理的な道みちの者たちとの共同戦線の果てに掴んだ勝利は、まさしくその後の真田家の雄飛の第一歩であります(真田の六連銭の由来も実に楽しい)。

 もちろん、まだまだ真田昌幸にはこれから長い戦いの道のりが待ち受けています。昌幸の宿敵としてタイトルに挙げられている家康もおそらくはこれから登場…ってえええええ! とラストで思い切り驚かされましたが、とにかく、昌幸伝はまだまだ序章。
 とみ新造先生による表紙のインパクトに負けない快作たる本作、続巻も今から楽しみです。


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