« 「玄庵検死帖」 加野節、健在なり | トップページ | 「奇想の江戸挿絵」 見事なる想像力と構成力と »

2008.05.11

「御庭番 明楽伊織」第2巻 明楽正継、大暴走

 いま最も先が楽しみな時代コミックの一つである「御庭番 明楽伊織」の第二巻であります。
 今にして思えばおとなしめだった第一巻ですが、この第二巻では一気に物語がブースト。全く予想外の、しかし凄まじく面白い方向に物語は展開しています。

 この巻の開幕早々、暴れまくるのは何と伊織の兄・明楽正継。連載開始当初は、立ち位置的に(そして「明楽と孫蔵」との繋がり的に)「ああ敵に惨殺されちゃうのね」と思いこんでいたのですが、あに図らんや、されるどころか惨殺する側に回るとは…
 第一巻ラストで意味ありげに登場、尾張柳生の剣士たちと密談を始めた正継兄は、何と幕府の秘事を記した文書を餌に取引を開始。幕府への忠義はと相手に問われれば――
「忠義など仮名手本(忠臣蔵)舞台の上の絵空事!!! 莫迦貝は儒者どもに喰らわせておけッ 俺は自分の意志へ忠義する!!!」
 …莫迦貝がどこから出てきたかわかりませんが、とにかくすごい勢いです。
 そして首尾よく取引を成立させたと思いきや、渡すはずの文書を巻き上げて逃走、怒り心頭に達した尾張柳生をさらに嘲弄しまくった末に、短銃を持った相手を含めて五名の剣士をたった一人、それも無手の状態から一人残らず惨殺!
「お母ちゃんにいわれただろ? “ゴハン食べてる時はベチャクチャしゃべらずに黙ってハシ動かしなさい”ってな!」
「銃に手をかけたら何より先に引き金引くのが宇宙の常識!!」

 お母ちゃんと宇宙の両極端を同時に持ち出されては、もう逆らえません。脱帽です。

 と、第二巻のほぼ1/3を正継兄が占領した一方で、主人公である伊織の方は、連載当初の迷える状態から脱し、あっさりと孫蔵にもリベンジ。パワーアップの理由が、師匠により封印されていた本来の力を発揮したから、というのはどうかと思いますし(まあ、森田作品の主人公に地道な修行シーンは似合いませんが…)、あまりにも人間ができすぎてしまった感もあるのですが、一瞬の死闘を経た後の、孫蔵との心の交流はなかなか味わい深く、また、ちょっと「明楽と孫蔵」で見せてくれた気楽な二人の距離感的なものも垣間見せてくれたのは嬉しいところです。

 この他にも、この巻ではちょっとした描写に深い味わいを感じさせる場面が――例えば、芸者の付き人の男衆がちょっとした伊織の動きから彼の達した域を悟る場面や、伊織が宿場のやくざ相手に暴風の如く暴れ回る傍らで平然と談笑する老武芸者たちの姿など――あり、単なる勢い任せではない、深みと美学を感じさせるものが本作にはあります。


 さて、いかにパワーアップしたとて伊織の進む道はまだ見えず、いつタイトル通りとなるのかもわからない状況。その一方で、正継の方は婆琉披(バルバ)忍衆なる配下を集め、なにやら更なる陰謀を(まさか蝦夷地で地上に残った最後の神を甦らせるわけではありますまいが)巡らす最中であります。共に「龍と変容て歴史の闇の彼方に去る」ことが運命づけられた男たちの死闘の行方や如何に…
 連載も休載が少なくなく、雑誌自体ナニではありますが、物語のポテンシャルを使い切って、最後の最後まで物語が描かれ尽くされることを祈る次第です。


「御庭番 明楽伊織」(森田信吾 角川書店チャージコミックス) Amazon

関連記事
 「御庭番 明楽伊織」第一巻 明楽伊織、モラトリアムにもがく

|

« 「玄庵検死帖」 加野節、健在なり | トップページ | 「奇想の江戸挿絵」 見事なる想像力と構成力と »

コメント

何時の間に二巻が・・・
先日コンビに本で「常食グルメ 駅前の歩き方」が出ていたばかりなのに、うれしいですな。

つーか、これとそれの作風の違いにくらくら着ますが確か氏のデビュー作は原作付きの「知られざる天才たち」でしたかなぁ?
ある意味何でもかける職人的な人なのかも?

投稿: Haster | 2008.05.12 00:29

Haster様:
なんと!「駅前の歩き方」のコンビニ本が出ていたのですか。それは気付きませんでした。あれもいい本ですよねえ…

「知られざる天才たち」は初連載作でしたかね。それにしても、「明楽と孫蔵」と「知られざる~」の作者が同じ人物と知ったときには驚きました。

ちなみに↓の作者は同名異人ではありません。ご本人です。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4277753248/

投稿: 三田主水 | 2008.05.13 00:36

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/41164688

この記事へのトラックバック一覧です: 「御庭番 明楽伊織」第2巻 明楽正継、大暴走:

« 「玄庵検死帖」 加野節、健在なり | トップページ | 「奇想の江戸挿絵」 見事なる想像力と構成力と »