« 「御庭番 明楽伊織」第2巻 明楽正継、大暴走 | トップページ | 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 ここでわざわざ助九郎 »

2008.05.12

「奇想の江戸挿絵」 見事なる想像力と構成力と

 銀地に黒、帯でピンクを用いた、否応なしに書店で目に飛び込んでくる強烈なデザインに吸い寄せられて思わず手に取ってみれば、私のような人間にはまことに楽しい一冊。
 江戸時代の読本に付された挿絵の中から、特に技法・表現等に優れたものを選び出し、現代にまで通じるそのデザイン/ビジュアルセンスを論じた労作であります。

 読本に対する私の興味については以前にも述べましたが、現代の伝奇小説のご先祖様ともいうべき存在だけあって、扱う題材も奇怪なもの、あるいは超自然的なものがしばしば登場します。
 そのような対象を描き出すためには、既存の、通常の技法によるのみでは足りません。雷鳴や爆発といった一瞬の動き、あるいは幽霊や妖怪といったあり得べからざる存在など、現実世界では目にすることのできないものを、如何にダイナミズムをもって平面の世界に固着させるか――
 その精華が、本書には多数収録されています。

 読本の第一人者・曲亭馬琴との作品をはじめとして、数々の読本を彩った葛飾北斎の頭抜けたセンスは言うまでもありませんが、それだけでなく、現代では全く無名の絵師の手になる作品の中にも、ハッとさせられるものが数多く存在しています。
 それこそは、人間の持つ想像力の豊かさと、それを実現するための構成力の見事さの証明であり――現代の漫画やアニメへの影響云々は抜きにしても、大いに感心させられるものがありました。

(ちなみに、本書に収録された作品の中には、本来であればおぞましく、忌まわしいものであるグロ/ゴアシーンをいかにスタイリッシュに描き出すかに腐心したものも多く、そこに扇情性と芸術性の狭間が見て取れるのも、興味深いことであります)


 …などと小理屈をひねくり回すこともなく、難しいこと一切抜きで、収録された図版を眺めているだけでも本当に楽しい本書。
 収録された読本のあらすじの記載も実にありがたく、新書版という形態ゆえに、図版のサイズが少々小さくならざるを得ないという点はあるものの、しかし、これほどの内容のものを、気軽に手にすることができるというのは本当にありがたいお話です。
 まずは一度、書店で手にとっていただければ――まさしく一目で虜になることは請合いです。


「奇想の江戸挿絵」(辻惟雄 集英社新書) Amazon

|

« 「御庭番 明楽伊織」第2巻 明楽正継、大暴走 | トップページ | 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 ここでわざわざ助九郎 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/41176573

この記事へのトラックバック一覧です: 「奇想の江戸挿絵」 見事なる想像力と構成力と:

« 「御庭番 明楽伊織」第2巻 明楽正継、大暴走 | トップページ | 今週の「Y十M 柳生忍法帖」 ここでわざわざ助九郎 »