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2008.05.18

「長嶋十勇士」 真田一党、現代に出現す

 王貞治が一本足打法を編み出す際に日本刀を用いて特訓を行ったというエピソードにも端的に見られるように、剣術とバッティングの動きに我々はどうも類似性を見出すようです。そのためか、野球と剣術を結びつけたフィクション作品も珍しくないのですが、今日紹介するのはその中でも珍品の部類に入るであろう作品。今をときめく宮本昌孝先生が二十年近く前に発表された作品であります。

 かつての栄光も空しく、今は万年最下位の大洋ホエールズの監督として野球ファンから失笑を罵声を浴びている長嶋茂雄。阪神との試合の後、一人天王寺界隈を彷徨っていた彼が出くわしたのは、何と大坂夏の陣の最中に現代にタイムスリップしてしまった真田幸村と真田十勇士でありました。幸村たちに好感を抱いた長嶋は彼らを匿い、恩義を感じた幸村と十勇士は、長嶋のために野球選手となることを申し出ます。超絶の身体能力を持つ真田九勇士(幸村はコーチ)の活躍で王貞治率いる巨人と激しいペナントレース争いを演じる大洋ですが、しかし巨人の背後には、真田と戦っているうちに共にタイムスリップしてきた柳生宗矩と服部半蔵ら伊賀忍群の姿が――かくて優勝をかけた最終戦、壮絶な秘術争いの結末は!

 …という内容の作品があったんです。本当に。
 私も雑誌掲載時にちらっと目にしたきりで、今回ようやくきちんと読むことができたのですが(コピーを見せて下さったH氏に心から御礼申し上げます)、いやはや、ある意味期待通りの内容です。

 内容的には、80年の長嶋解任劇の後、巨人に戻ることができず大洋ホエールズの監督に就任したというifの世界のお話(本作発表は90年ですので、93年に監督再任される前ですね)ですが、それはまあ小さいこと。五味先生の名作「一刀斎は背番号6」では伊藤一刀斎(しかもこれは子孫)一人の活躍でしたが、本作では真田十勇士(-霧隠才蔵)の九人が大洋ナインとして大暴れ。何せ立川文庫の荒唐無稽なパワーそのままに活躍するのですから、一流アスリートとはいえ普通の野球選手がかなうわけはない。
(十勇士の中でただ一人、霧隠才蔵のみはナインに加わっていないのですが、彼は忍び稼業に嫌気がさして俳優に転向。その名も市雷蔵として「忍びの者」なる映画に主演しております…)
 しかし巨人側には、王監督に家康の姿を見た(名付けて王御所)宗矩と半蔵が味方して、馬鹿馬鹿しくも何となく懐かしい忍術の数々で真田勢を苦しめるのが愉快。特に僕らの知将・柳生宗矩は、最終戦に(この世界では巨人入りした)荒木大輔を投入、時代小説ファンであればアッと驚く作戦で真田勢を窮地に陥れてくれます。

 …何となく、いまだに単行本に収録されていない理由もわかるような気がしますが、本作は宮本先生にとっては、まだ出世作たる「剣豪将軍義輝」を発表する数年前、「もしかして時代劇」「旗本花咲男」など、時代小説作家の方向性を強めつつも、パロディ・コメディ色の強い作品を執筆していた頃の作品。そう考えれば、取り立てておかしな作品というわけではないかと思います(…いややっぱりどうかなあ)。
 正直なところ、ネタもののわりにちょっとページ数が多かったのか、十勇士たちの活躍を描くにいささか冗長に感じる部分がないでもないのですが、それでも良い意味で稚気溢れる内容は理屈抜きで楽しく、パロディ作家としての宮本先生のスキルというものを感じさせてくれます。


 ちなみにそもそも真田一党と宗矩・半蔵らがタイムスリップしてしまった原因は、淀君のあまりに甲高い叫び声が時空を揺るがしたためという設定なのですが、甲高い声といえばやはり…というわけで、ラストでは驚天動地のオチが待ち受けております。
 色々な意味で素晴らしい本作、いつか皆さんの目にも入る日を私は心から楽しみにしているのですが…どうかなあ。


「長嶋十勇士」(宮本昌孝 「小説奇想天外」11号掲載)

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コメント

凄いですね。
読んでみたいけど、絶対本には成らないでしょうねえ。

そう言えば、志茂田景樹先生の「戦国の長島巨人軍」はこの逆パターンでした。
こちらは私も読んだことがありますが、
気分は長さんでした。
「駄目だこりゃ」

投稿: 冬至楼均 | 2008.05.18 20:37

本に収録されるという噂があるようなないような…

しかし志茂田先生のアレは、ある意味結構メジャーかもしれませんね。私は未読ですが、結構あちこちで感想を目にします。内容は、まあなんというか…

投稿: 三田主水 | 2008.05.19 00:30

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