« 「長嶋十勇士」 真田一党、現代に出現す | トップページ | 「蜻蛉切り 兵庫と伊織の捕物帖」 シリーズものゆえの功罪 »

2008.05.19

「からくりの君」(アニメ) 原作とアニメの幸福な出会い

 藤田和日郎の怪奇熱血伝奇時代劇「からくりの君」についてはだいぶ以前に紹介しましたが、評判は良いものの半ば幻の作品となっていたアニメ版をようやく観ることができました。日本ではビデオ化のみでDVD化されていなかったため、海外版のDVDを入手しての観賞であります。(以下、原作未読の方にはネタバレの内容を含みます)

 原作は五十ページの短編であり分量的に丁度良かったためか、このアニメ版は、原作をほとんど全くなぞった内容。わずかに追加されたシーンや、ラストバトルの場所の変更などはありましたが、物語の印象を大きく変えるものではありません。
 それでもなお、あえて原作既読者も観るべき、と私は強く思いますが、それは本作の演出・構成の巧みさによります。

 何よりも特筆すべきは監督・絵コンテ・作画監督・キャラクターデザインと八面六臂の活躍を見せた高谷浩利氏による気合いの入ったビジュアル。なるほど元スタジオG-1の氏らしく、なかなかバリっとしたメリハリの効いた(効きすぎた)アクション演出には、原作の雰囲気をよく活かしつつも、単なる「動く漫画」ではなく、アニメーションとしての楽しさが満ちています。
 特に敵方の「死なずの忍」のアクションは、「異形」「人形」というこのキャラクターの属性を見事に動きで表現したものとなっていて、思わずうならされました。なるほど、このキャラクターであればこのように動くだろうな、というアクションは、一見の価値ありかと思います。

 しかしそれ以上に印象的だったのは、原作の意図を踏まえつつも、それをさらに踏み込んで、物語のシチュエーションをより鮮明なものとしている点でしょうか。
 例えば、クライマックスの狩又城突撃の中での、第二のからくり人形・次郎丸が破壊されるシーン。原作では、第三の人形・弁慶丸出撃のために操り糸を切り離された後、一コマ地に伏した姿が描かれるのみですが、アニメ版では、コントロールを失ったところを、城兵たちの無数の槍に突き刺されて晒し上げられるという無惨な姿までが描かれます。一見過剰な描写にも見えますが、しかしこれは、この人形たちを操っている蘭菊の想いを考えれば、むしろ重要な描写であると言えましょう。

 そして何より、ラストの狩又貞義との決着の一撃。最強の生き人形(原作ではほとんどその力を見せることなく倒された生き人形のパワーが、弥三郎相手の派手なアクションできっちりと強調されているのが嬉しい)と一体化した貞義の懐に、人形に扮した蘭菊が飛び込み、そしてその刃が貞義に突き刺さった時…
生き人形の動力源である己の生皮を断つ蘭菊の刃→飛び散る生皮→貞義「ほ…本物の…人形か…」→蘭菊の顔から面が外れ、生皮と共に落ちていく→蘭菊「人形では、ありませぬ」
という流れが実に美しく――こうして書くと実にベタなのですが、蘭菊の過去との訣別というシーンを、これ以上ない形でドラマチックに描いてみせたのには、ただ感心するのみです。

 なお、本作のキャストは
 蘭菊  :矢島晶子
 弥三郎 :若本規夫
 狩又貞義:中田浩二

と、芸達者揃い。ことに若本規夫は、最近のほとんど出オチ状態ではなく、やさぐれながらも心の中に熱い火種を隠している弥三郎のキャラクターを見事に演じきっており、まさにハマリ役、といった印象でありました。


 スタッフ、キャストともに、原作の魅力を十二分に引き出したと言える本作。いささか大げさではありますが、原作とアニメの幸福な関係の一つが、ここにはあります。

 …が、何よりも残念なのは、冒頭に述べたとおり、本作が日本ではDVD化されていないこと。つい先頃、次世代DVDの規格争いに決着云々と報じられておりましたが、それ以前に、本作のように埋もれた名作のソフト化を進めてもらえないものかと、つくづく感じる次第です。


「からくりの君」(東宝ビデオ) Amazon

関連記事
 「からくりの君」 恐ろしくも熱い、怪奇熱血時代伝奇漫画の快作

|

« 「長嶋十勇士」 真田一党、現代に出現す | トップページ | 「蜻蛉切り 兵庫と伊織の捕物帖」 シリーズものゆえの功罪 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/41251667

この記事へのトラックバック一覧です: 「からくりの君」(アニメ) 原作とアニメの幸福な出会い:

« 「長嶋十勇士」 真田一党、現代に出現す | トップページ | 「蜻蛉切り 兵庫と伊織の捕物帖」 シリーズものゆえの功罪 »