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2008.05.25

「無宿若様 剣風街道」 破調としての怪四郎


 祥伝社文庫の怒怪四郎もの第二弾として刊行された本作は、しかし、怪四郎はむしろゲスト的立ち位置の、いわゆる「若様もの」の作品。亀山藩主のご落胤・鮎太郎を巡っての大活劇であります。

 「若様もの」は、田舎で育てられた大名のご落胤が、父と対面するために旅に出て、首尾良く対面を果たすまでを描く一種の貴種流離譚。当然、主人公の旅路も平坦なものではなく、大抵父の家では跡目相続を巡っての陰謀やらお家騒動が繰り広げられているのが、まずは定番。一方、主人公の方も、市井に紛れて暮らすうち、人々の人情に触れたり、様々な女性に惚れられたりというのもまたパターンであります。

 弱ったことに、本作は上記のパターンにことごとく当てはまってしまうのですが、しかしここでパターンを破ってくれるのが怪四郎の存在。本作での怪四郎は、鮎太郎に惚れた女掏摸・お艶たちとつるむ無宿浪人として登場、設定は微妙に他の作品と違いますが(これはご愛敬)、酒と人斬りをこよなく愛する物騒な怪剣客設定はそのままであります。

 基本的に明朗な作風の若様ものに、ふつうであればこの怪四郎のようなアンチヒーローは一見不釣り合い、登場したとしても敵方がせいぜいにも思えます。しかし、善玉か悪玉か、きれいに二つに分かれる登場人物の中で、ただ一人、そのどちらでもなく、どちらでもある怪四郎を投入しただけで、一気に物語に動きが出てきます。
 怪四郎の存在が、パターン通りの物語に、いい具合の破調をもたらしていると言えるでしょうか。

 そしてそれだけでなく――これは勝手な思い入れかもしれませんが――本作においては、鮎太郎と触れ合うことで、怪四郎自身のキャラにも、どこか人間味のようなものが見えてくるのも嬉しいところ。
 実は怪四郎も元は折り目正しい生まれの人物。それが身を持ち崩して今の無宿浪人であるのと対照的に、鮎太郎は今は無宿若様ながら、これからの未来がある青年であります。その意味でもネガとポジの二人の交流が、互いのキャラを深める効果を上げていると、私には思えます。

 ちなみに本作の表紙イラストは、この二人の関係を示すようななかなか洒落たもの。そもそも本作を文庫化してくれただけでも有り難いのですが、祥伝社の努力には頭が下がります。


「無宿若様 剣風街道」(太田蘭三 祥伝社文庫) Amazon

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