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2008.06.23

「忍法十番勝負」(その一) 十番勝負の幕上がる

 堀江卓先生の「矢車剣之助」刊行記念、というのは強引に過ぎますが、よく考えてみればきちんと紹介していなかったのが、選ばれた十人の漫画家による伝説の連作企画「忍法十番勝負」。
 大坂の陣直前、大阪城の抜け穴を記した絵図面を巡って、徳川方と大坂方それぞれの忍びが死闘を繰り広げる本作をいま改めて読み返してみれば、これがまた――当たり前のことながら――実に面白い。そこで本作を今日から三回に分けて紹介したいと思います。

一番勝負 堀江卓
 事の発端となる一番勝負は、大坂城建築を担った大工たちが集められた夕月村から、彼らの命とも言うべき大坂城抜け穴の絵図面が奪われる場面から始まります。奪ったのは、ペスト菌を持つネズミを操る怪忍者(日本にペストが伝来したのは明治時代とか言わない)、追うのは一匹狼のはぐれ忍者――大坂城一番乗りを目指し、徳川方の各大名が血眼で絵図面を求める中、十番勝負の幕が上がる、というわけです。
 と、その争奪戦だけでも一番勝負としては十分なのに、贅沢なことにそれだけでは終わらないのが本作。物語は、絵図面を求める大名の一人、かの坂崎出羽守を巻き込んでの、伝奇的な一大陰謀にまで展開するのですから面白い。単なる幕開けの一編では終わらない、という堀江先生の意気込みが感じられるようではありませんか。
 絵柄的にも「矢車剣之助」の後期に見られるような、シャープな中に暖かみが感じられる本作。アクション・アイディア・ビジュアルと、堀江先生の魅力がよく表れた佳品かと思います。


二番勝負 藤子不二雄A
 お次は、もしかするともっとも有名な忍者漫画かもしれない「忍者ハットリくん」の生みの親、藤子不二雄A先生。一番勝負で世に出た絵図面を巡り、甲賀ねむり組と真田忍党六法師、そしてその絵図面を足がかりに侍として世に出ようとする風来忍者の兄弟が死闘を繰り広げます。
 藤子不二雄としても、より陰影の強いビジュアルを得意とするA先生ですが、本作でもそれは遺憾なく発揮され、それぞれ「風」「雨」「雪」と題された各章において、その名の通りの自然現象が印象的な画で描き出されてています。特に雪の場面などは、白抜きのコマ全てに、霏霏として雪が降っているかのように見えるほどの素晴らしい画面作りに唸らされます。
 「風」「雨」「雪」――それぞれの場面に共通する寂寥感・孤独感が、明日なき忍者たちの死闘と相まって、強く印象に残ります。ねむり組の怪忍者の素顔なども、怪奇ものを得意としたA先生のカラーがよく出ているかと思います。


三番勝負 松本あきら(松本零士)
 良くも悪くも今ではすっかり宇宙戦艦と銀河鉄道の先生になった感のある松本零士先生ですが、こちらでは今となっては非常に珍しい忍者アクションを見ることができます。
 主人公は、偶然絵図面を手に入れてしまった大平忍者の若き頭首。乱世の中で独立独歩を守っていた彼らが、絵図面のために伊賀と甲賀の争奪戦に巻き込まれることになります。
 その名の通り平和を愛し、自由と独立を尊ぶ大平忍者の姿は、松本キャラの多くに見られる心意気というものが感じられますが、その彼らが伊賀・甲賀の忍者たちと演じる忍法合戦は壮絶の一言。最後の最後に驚くべき秘密を明らかにする大平忍者の爺の覚悟にも驚かされますが、その他キャラクターとしても、甲賀の頭領・陽炎魔のミュータントめいた奇怪な相貌と、伊賀の頭領・服部半蔵の颯爽たる男ぶりの良さが印象に残ります。彼らもまた、松本キャラの一員と言うべきでしょうか。


 次回に続きます。


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