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2008.06.08

「麝香姫の恋文」 原動力はロマンチシズム

 舞台が戦前というだけで、時代ものでもなんでもありませんが、私の隠れた好物である探偵小説でもあり、たまにはこういうのもいいでしょう。
 昭和初期の帝都東京を舞台に、怪盗淑女・麝香姫と、飄々とした一高教師・間宮諷四郎の対決を描いた本作、先頃文庫化もされた作品であります。

 辣腕でもって知られる実業家・神宮寺啓介の元に届けられた大胆不敵な予告状――それは、近頃帝都を騒がす怪盗麝香姫からの「恋文」でありました。とある縁からこの事件に挑むことになった諷四郎は、その背後に潜む意外なカラクリを暴いてみせるのですが、しかしそれは本当の事件のプロローグ。
 啓介の元からある秘密を奪った麝香姫は、引き替えに驚くべき要求を突きつけるのですが、さて、麝香姫の真意はいずこに…

 と、気持ちのいいくらいに時代がかった本作、レトロな冒険活劇といえば、作者の独壇場ですが、本作ではそれに加えてちょっと耽美なムードと、溢れんばかりのロマンチシズムがたっぷりふりかけられています。本作の挿画を担当したのは波津彬子先生ですが、実にピッタリとはまっております。

 探偵小説において、最も注目すべきは――そして作者が力を入れるべきは――探偵とそのライバルの造形ではないかと個人的に思いますが、特に怪盗の造形からみれば、本作はまさに理想の作品。
 真に美しいもののみを狙うという麝香姫は、その艶やかな異名にふさわしい、美しくも大胆不敵な怪盗淑女。華やかな社交界の花形を表の顔としながらも、裏の顔を見せるときには一人称が「ぼく」の男装の麗人となるのもまた面白い。

 その麝香姫が狙ったもの、それが何かは、物語の中盤で明らかになりますが、ではなぜそれを狙うのか――つまり、彼女が真に狙ったものは何だったのか、それが本作最大の謎であり、魅力であります。
 それは、冷静に考えればあまりにも浮き世離れしたものではありますが、しかし、本作の舞台装置は、まさにそれを可能とするためのお膳立てのにために構築されたものと考えるべきでしょう。
 こんな、ロマンチシズムが物語の原動力である、大人のためのおとぎ話もあっていいじゃないか…と、私は思います。


 もっとも、本作に対して、決して小さくはない不満があることもまた事実。主人公二人以外の脇役の造形があまりにも紋切り型なのは、なまじ主人公のキャラがよくできているだけに違和感が際だちますし、何よりも地の文の時代がかった言い回しが目について、物語に没入できない部分がありました(これは趣味の問題かとは思いますが…)
 作品として面白いだけに、この辺りがまことに残念なのですが、そこをクリアした続編の登場を、期待しているところではあります。


「麝香姫の恋文」(赤城毅 講談社文庫) Amazon

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