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2008.06.06

「蜘蛛巣姫」 “人間以外”への眼差し

 主家を失い、自らも無惨に討たれた青年武士・八郎太。が、敵陣から彼の死体を奪い、奇怪な糸の力で蘇らせた女がいた。彼女こそは、蜘蛛の変化ながら、密かに八郎太を慕っていた妖怪・ヤツメ。八郎太は、彼女のものとなることと引き替えに、捕らわれの身となった姫を助けに向かうが。

 何度も何度も同じ失敗をして後悔するのですが、好きな作家の作品が雑誌に掲載されたのに、しかし「いずれ単行本に入るよ」と思ってスルーすると、それがなかなか単行本に収録されないことがあります。
 私にとって、椎名高志先生の時代ラブコメ「蜘蛛巣姫」もその一つでしたが、このたび、めでたく先生の単行本「(有)椎名大百貨店」に収録されました。

 椎名先生の時代漫画と言えば、現在文庫版で刊行中の快作「MISTERジパング」がありますが、今は亡き「ヤングマガジンアッパーズ」誌の休刊一つ前の号に掲載された本作も、同じ戦国時代を舞台とした――しかし、誰も知らない、ささやかな悲喜劇であります。

 シチュエーションはシリアスなのですが、そこにコミカルなドタバタアクションが入り込んで、なんだかえらく楽しい世界になってしまうというのが、椎名節の一つかと思いますが、それは本作でも健在。
 ページ数の関係か、お話としてはちょっとまとまりがよすぎるというか、良くも悪くもよくできたお話という感はあるのですが、しかし、おっかない妖怪ながら、報われぬ恋心に身を焦がすというヤツメさんのキャラクターも、きっちり面白悲しく描かれていて、まずは安心して楽しめる作品でした。
(文字通りすっぽ抜けたようなオチも愉快)

 何よりも、私が椎名先生の作品において最も魅力的と感じるところの、人間以外の、あるいは人間以上の力を持つ…しかし、時として人間以上に人間らしい心を見せる、そんな存在への暖かい眼差し――それはもちろん、人間自体へ向けられた眼差しでもあるのですが――が本作でも健在だったのが、嬉しいところであります。


 ちなみに本書には、隠れたホームズパロディの名作「GSホームズ極楽大作戦!!」の第二作目も収録されており、ホームズファンでもある私にとっては、二度おいしい一冊でした。


「蜘蛛巣姫」(椎名高志 「(有)椎名大百貨店」所収) Amazon

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