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2008.06.04

「国禁 奥右筆秘帳」 鎖国と開国の合間に

 困窮に喘ぐ津軽藩から、石高上げ願いが提出された。奥右筆組頭・立花併右衛門は、その背後に国禁の密貿易の影を感じ取る。その併右衛門を狙う数々の凶刃を向こうに回し奮闘する柊衛悟だが、魔手は遂に併右衛門の娘・瑞紀にまで伸びる。将軍家斉の父・一橋治済の暗躍も続く中、衛悟らの運命は…

 近頃出版ペースも好調な上田秀人先生の最新シリーズ「奥右筆秘帳」の第二弾は、津軽藩の抜け荷事件の背後に潜む巨大な歴史の闇が描かれる一編。
 前作で権力者たちの暗闘に巻き込まれ、松平定信の庇護下に入った併右衛門ですが、しかし陰謀と暗闘の渦から逃れられたわけではなく、むしろいよいよ蟻地獄の如き世界に踏み込んでしまった感があります。
 上田作品においては、権力者に刺客を放たれて当たり前、二つ三つの勢力を敵に回してからが本番(?)という印象がありますが、本作での併右衛門と衛悟の立場はまさにそれ。非情の刺客・冥府防人だけでも手に余るところに、今回は人の心理の裏を突く伊賀忍者の卑劣な罠が二人を襲い、さしもの老練な併右衛門も追いつめられていくこととなります。

 さて、毎回毎回、よくもこれだけ思いつくものだ…と感心してしまうほど、歴史の闇に隠れた権力の大秘事を伝奇的味付けで見せてくれる上田作品ですが、本作で描かれるのは、津軽藩が握る、幕府成立当初のある秘密。
 その秘密の正体についてはもちろんここでは述べませんが、一見あっさりとしたものであるようでいて、その実、現実の政治情勢などをみれば、なるほどこれは爆弾となりうるわい…と唸らされるようなもの。そして何よりも、その大秘事が、回り回って抜け荷という「国禁」に結びつくという歴史的皮肉の面白さに、ニヤリとさせられました。

 個人的な趣味からすると、ちょっとマクロな政治の世界(=権力者たちの暗躍)の方に描写のウェイトが置かれ気味の印象があって、もう少し衛悟と併右衛門の側のドラマを深めて欲しいな、という気持ちもあるのですが(あと、もうちょっと併右衛門は衛悟のことを認めてやってもいいのに…)、これからまだまだ長丁場、お楽しみはこれからじっくりということなのでしょう。
 老練な併右衛門に比べると、まだまだ未熟さが目立つ衛悟ですが、その真っ直ぐな若さが、やがて苦境を切り開く力になると信じて、次の巻を楽しみに待つこととします。


「国禁 奥右筆秘帳」(上田秀人 講談社文庫) Amazon


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