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2008.06.25

「忍法十番勝負」(その三) 作品内外の真剣勝負

 三日連続の「忍法十番勝負」紹介もいよいよラスト、今日は残る八番勝負から十番勝負までであります。

八番勝負 小沢さとる
 いよいよ十番勝負も終盤戦。遂に徳川方に渡った絵図面が、意外極まりない戦いを引き起こす本作を描くのは小沢さとる先生。小沢先生といえばやはり潜水艦ものの印象が強く、事実、この前年に「サブマリン707」を開始し、数年後に「青の6号」を連載することとなるのですが、時代ものを描いてもやはりうまい、の一言です。
 何よりも凄まじいのは本作の趣向…絵図面に記された抜け穴が実はフェイクであったことを知った徳川家康は、しかし、徳川方・大坂方双方の注意を引きつけることを目的として、絵図面の価値をもっともらしく思わせるそのためだけに、配下の少年忍者・伊賀丸と、服部半蔵を決闘させようというのですから…! 裏切りなどではなく、主君の命により、無駄とわかっている争いを繰り広げさせられる忍者の存在こそ哀れですが、そこに大坂方の忍者も絡み、さらに終盤にはどんでん返しも用意されていて、見事なストーリーテリングに脱帽です(だから伊賀丸がどう見ても影丸のコピーとか言わない)。


九番勝負 石ノ森章太郎
 そして九番勝負は、前作からワンクッション置くかのような痛快無比な一大活劇。描くのは石ノ森章太郎先生ですが、これがもう完全に忍者ものの枠をブチ抜いたかのようなド派手なアクションを見せてくれます。
 再び繰り返される忍者たちの争奪戦の中、偶然絵図面を手に入れたのは、風来坊忍者三人組。そこに襲いかかるのは、絵図面を追う伊賀忍者と行者体の白忍者、二つの忍者集団で、たちまち三つ巴の壮絶な忍法合戦、いや忍法戦争と言うべきものが始まるのですが――大鉞がブーメランの如く舞い、手刀が骨をも断ち、大地が真っ二つに裂け、山犬の群れが地を埋め尽くす…と、石森先生お得意の超人ヒーローや超能力者同士の激突を、そのまま忍者ものの世界に投入したかのようなアクションにはただただ圧倒されます。
 内容的には、本当に最初から最後までバトルの連続で終わるのですが、その中で、十番中ほとんど唯一と言ってよいほど、絵図面に執着を見せない主人公トリオの存在感が際立って見えるのも面白いところです。


十番勝負 横山光輝
 さてラストの十番勝負は、やはりこのお方――白土三平と並んで忍者漫画の大御所たる横山光輝先生で締めであります。最終戦の舞台となるのは、豊臣方が立て籠もる大坂城。この十番勝負が、大坂城抜け穴の秘密を巡って繰り広げられたことを考えれば、ラストにまことにふさわしい舞台であります。
 家康の唯一の心残りである千姫救出のため、抜け穴の在処を探して次々と襲い来る幕府の忍者を迎え撃つのは猿飛佐助に霧隠才蔵のビッグネーム。彼らの他にも、南光坊天海に木村重成、豊臣秀頼と、お馴染みの大物が次々と登場して、最後の戦いを華々しく飾ってくれます。
 そして展開される物語はと言えば、もはやここまでくると横綱相撲と言いたくなるような、全く危なげないストーリー運びで、まさに大家の風格充分と言ったところ。繰り広げられる忍法合戦には、横山ファンであればお馴染みのシチュエーションも色々と登場するのですが、これはむしろ横山忍者アクションの集大成と見るべきでありましょう。
 ラストの一コマで坂崎出羽守の名が語られ、一番勝負と繋がるという構成もまた、見事と言うほかありません。


 と、長々と紹介してきた「忍法十番勝負」ですが、今回読み直してみて、改めてその完成度の高さに驚かされました。今までの印象では、諸先生方が好きなように物語を展開させていた印象があったのですが、八番勝負と十番勝負で家康の心情がちょっと矛盾するのを除けば、きちんと物語が繋がるようになっていたのには大いに感心いたしました(何を今更、といったところですが…)。
 内容的にも、これまで縷々書き述べて参りましたように、諸先生方がそれぞれの魅力を存分に発揮して、一つとして同じ印象のない、十の物語を展開しており、その豪華な顔ぶれを考えるまでもなく、実に贅沢な作品であったと思います。
 月並みな表現でありますが、物語中の忍者のみならず、その物語を描き出した各先生方もまた、真剣勝負に臨んでいた――そんな印象が残る、名著でありました。


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