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2008.06.13

「大奥開城 女たちの幕末」 大奥上臈、京へ

 帝を奉じた薩長の進撃の前に幕府も風前の灯となる中、京から敗走してきた徳川慶喜は、これ以上の内戦を避けるため、江戸城大奥の和宮に、朝廷との調停を依頼する。その使者を命じられた和宮付きの上臈・土御門藤子は、一路京へ向かうが、幕府・薩長・朝廷の複雑な思惑が、藤子の一行に危機を招くのだった。

 明治維新によって江戸城の住人は総入れ替えとなったわけですが、当然、大奥に暮らしていた数多くの女性たちも江戸城を退去したことになります。冷静に考えれば、大事であったはずのこの史実は、しかし――同時期によりドラマチックな事件が様々にあったこともあって――ほとんど顧みられていないのが現状です。
 本作は、その大奥開城にスポットを当てるとともに、江戸城無血開城という大事の陰で、人知れぬ苦闘を繰り広げた人々の姿を描くドラマであります。

 作者の植松三十里氏は、歴史小説家ということもあって、お堅いイメージがあったのですが、本作は、「ハリウッド映画が好きだ。(中略)そんな感じの歴史時代小説が書けないものかと、ずっと考えていた」とあとがきで作者自身が語るとおりのエンターテイメントの快作。
 主人公の土御門藤子をはじめとして、登場人物のほとんどは実在の人物なのですが、そこに巧みな想像のエッセンスを加えて、徳川家の、いや、大奥で暮らす女人たち、さらには江戸の人々を救うための江戸から京への決死行が、手に汗握るタッチで描かれます。
 その内容は、むしろ特務部隊ものの冒険小説的――すなわち、共通の目的のために集まった個性的なメンバーが、時に反目しつつ、時に協力しつつ、絶望的な状況下で戦いを繰り広げるという、そんなテイストが感じられます(主人公と相手役のロマンスは、まあ、予想通りというかなんというかですが…)

 しかしもちろん、エンターテイメント一辺倒でないのももちろんの話。個人的に感心させられたのは、主人公の藤子をはじめとする女性たちの描写、藤子と、彼女と共に京に向かう大奥の女性の描写であります。
 大奥に入った女性たちは、基本的には外の世界にほとんど触れることなく、大奥の中のみで暮らす定め。そんな彼女たちが、突然大奥の外に出されることとなったとき――それも日本の命運を握る任務を背負わされて――果たして彼女たちがそれをどう受け止め、何を感じることとなるのか。一種、成長小説的側面を持つ本作ですが、その中で描かれる彼女たちの姿は(こういう表現はあまり好きではないのですが)女性作家ならではのもの、と強く感じます。

 特にそれが強く感じられたのは、登場人物の一人、お比呂を巡るドラマであります。和宮と事あるごとに対立する天璋院(徳川家定夫人のあの篤姫であります)方の中年寄である彼女は、立場といい、性格といいビジュアルといい、藤子とある意味対極に位置する女性ですが、その彼女が旅の途中で出会ったある事件により、どのように変わっていくか――そのドラマには、胸に迫るものがありました。


 「大奥」といい「篤姫」といい、今現在でキャッチーなキーワードが並ぶものの(それが今回の文庫化につながっているのだろうなあとは思いますが)、しかし内容はエンターテイメント性と歴史ドラマ性を両立させた本作。大奥――いや、女性というキーワードから幕末を、江戸開城を描いてみせた佳品であります。


「大奥開城 女たちの幕末」(植松三十里 双葉文庫) Amazon

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