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2008.06.05

「徳川外法忍風録」 人物チョイスの妙光る

 伊賀者・滝野右近は、久能山に葬られた徳川家康の柩に収められた天下無双の茶器の奪略を依頼される。持ち前の叛骨精神から久能山に忍び込んだ右近だが、そこで家康の遺体から首が失われている様を目撃する。首の謎を追う右近だが、その先には、幕府大目付、さらに怪僧・南光坊天海の姿が…

 火坂雅志先生の過去作を発掘してみようシリーズ。今回は江戸時代初期を舞台に、叛骨の忍びが徳川幕府の闇に挑戦する伝奇活劇です。
 ちなみに、現在のタイトルは、復刊された際に改題されたものですが、旧題については後述します。

 一口に言ってしまえば本作は、この時期の他の火坂作品同様、素晴らしく斬新な傑作! というのではないけれども、エンターテイメントとして普通に面白い作品。活劇シーンの描写や伝奇ものとしてのガジェット、歴史ものとしての目配りなど、飛び抜けて面白いわけではないですが、まずは安心して最初から最後まで楽しむことができる、そんな作品です。

 しかし、そんな中でも作者のセンスを感じるのは、物語の中に、神竜院梵舜や織田長政といった、一般人がほとんど知らないような、しかし時代もの、伝奇ものとしてはなかなか面白い人物を配置している点であります。
 特に、本作の陰の主人公とも言うべき織田長政は、織田信長の弟・有楽斎の子で、自身もかぶき者として大いに鳴らした変わり者の大名という、実においしい設定で、この辺りのチョイスはさすがは…と思わされました。
 特に終盤、彼の血が物語の中で意外な意味を持って現れる件は――題材自体は非常によくあるアレなのですが、しかしそれだからこそ――唸らされました。

 なお、本作の旧題は、「家康外法首」という、伝奇ファンであれば一発で、物語の中心となる謎の正体がわかってしまうという、あまりに神経の行き届いていないもの。
 バックグラウンド的にそもそもなぜ天海がこれを使うのか、と突っ込みたくなる部分もあり(一応説明らしきものはあるのですが)、そこはすっきりしないのですが、まあこれはマニアの見方かもしれません。


 ちなみに、京で商人として暮らしながらも持ち前の叛骨精神と好奇心から厄介ごとに巻き込まれるという主人公のキャラクターは、後年の「骨董屋征次郎」シリーズに通じるものがあり、ファンとしてはなかなか興味深いものを感じた次第です。


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