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2008.06.10

「栞と紙魚子の百物語」 胃之頭町化物コンクール

 たくさん出ているようで思ったより出ていないような――そんな印象もこのシリーズらしい「栞と紙魚子」シリーズの六冊目であります(実は前の巻が刊行されたのが三年前と知って少々驚きました)。
 つい先だってまで「ネムキ」誌に掲載されていた分まで、相変わらずのゆるゆるで、それでいて非常に魅力的な物語が全七話収録されています。

 連作ホラーシリーズらしく、次から次へと新しい住人が登場する胃之頭町ですが、今回も妙な面子がぞろぞろ登場。奇怪な妖怪本を封じる本の狩人から、サービスシーンも悩ましい麗しの美女神、まるで伝奇ものに登場しそうな美形転校生…まあ色々と誇張も混じっていますが、とにかく賑やかで大変よろしい。
 これまでのシリーズファンにとっても、おさげをほどいた紙魚子が活躍(?)したり、段先生ご夫妻のなれそめが語られるなど、興味深いエピソードが多く収録されています。

 ラストのエピソードなど、ちょっとゆるすぎないかな…ちょっとパワーが衰えてきたかな、という印象もなきにしもあらずですが、冷静に考えれば、パワーに満ちあふれた本シリーズというのも逆に想像不能。このくらいのペースで丁度いいのかもしれません。

 さて、そろそろうちのサイトに関係のある話題に持っていけば、本書に収録されたエピソードの中でも、私が最も楽しく読んだのは「栞と紙魚子物怪録」。鋭い方であればすぐに気付かれるかと思いますが、あの「稲生物怪録」のパロディというか何というか…であります。

 「稲生物怪録」とは、今の広島県三次市で江戸時代の寛延年間に実際に起こったと言われる怪奇事件の記録。
 少年武士・稲生平太郎が、好奇心で魔所と呼ばれる山に出かけたのをきっかけに、稲生家において実に一月の間連続した怪異を克明に綴ったこの物語は、稲垣足穂先生をはじめとして様々な作家の手により取り上げられてきましたが、さて諸星先生の手にかかると…

 平太郎の剛胆ぶりに業を煮やしたもののけの総大将・山ン本五郎左衛門が、時空を超えて各地に助っ人を求めたのに巻き込まれた栞と紙魚子。こともあろうに胃之頭地区のもののけ代表ということにされてしまった二人は、江戸時代の平太郎の前に送り込まれる羽目に。
しかも、すったもんだの挙げ句、何故か栞は平太郎に化けて物怪たちの出現を待つことになって…

 剛胆というより天然というべき平太郎や、総大将の割りに微妙にセコい五郎左衛門など、原典の登場人物たちに、如何にも本作らしいアレンジがなされているのも楽しいのですが、何よりも、困った困ったといいつつも、普段が普段なだけに結構状況に適応してしまっている栞と紙魚子の姿が実に愉快であります。
 そしてクライマックス、ほとんど反則に近いシチュエーションで第三の助っ人が登場するシーンには、爆笑させていただきました。

 考えてみれば、彼女たちの日常こそが「物怪録」そのもの。なるほど相性が良いのも道理…というのはこじつけですが、どちらも、怪奇なるものに対するある種の親しみに溢れているのは間違いない話。
 「稲生物怪録」は、残念ながら三十日で幕となってしまいましたが、「栞と紙魚子」の物語は、まだまだこの先も、ゆるく何となく続いていくことでしょう。胃之頭町のもののけたちとの再会を楽しみにしつつ、こちらものんびりと待つことにしましょう。


「栞と紙魚子の百物語」(諸星大二郎 朝日新聞出版眠れぬ夜の奇妙な話コミックス) Amazon


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