「土竜の剣 大江戸落胤世直し帖」第1巻 土竜は天を駆けるか?
質屋・銀屋の蔵に住み、気楽な三食昼寝付きの毎日を送る「質草男」の栫蔵人には、もう一つの顔があった。権勢を誇る田沼意次の配下たちの外道の所業に対し、怒りの剣を振るう仮面の剣士・土竜――天下を私せんとする田沼の陰謀に、見えない秘剣「天の一角」が唸りをあげる。
「赤鴉」も快調なかわのいちろう先生が「週刊漫画ゴラク」誌上で連載中のチャンバラアクション「大江戸落胤世直し帖 土竜の剣」の単行本第一巻が発売となりました。
何といっても面白いのが主人公・栫蔵人の設定。人間の質草・質草男として、普段は質屋の土蔵で寝起きする昼行灯、というのが、実に人を喰った設定です。
しかしこの蔵人、副題に「落胤」とあるようにただ者ではありません。何とその正体は、第十代将軍・徳川家治のご落胤。一橋家の家斉を将軍位に据えようとする田沼意次に命を狙われ、今はある意味最も安全な穴蔵生活、というわけです(「必ずや穴蔵からひきずり出してくれる!」と比喩の意味で田沼に言われている当の本人が、本当に穴蔵にいるというのが面白い)。
が、一度田沼の悪事を知れば黙っていられない。将軍家由来の南蛮渡来の仮面に素顔を隠し、田沼意次の配下の隠密団・黒曜衆(田沼意次の家紋・七曜紋の真ん中が黒く塗られたシンボルマークが格好良い)を、ばっさばっさと薙ぎ倒していくこととなります。
そして蔵人の振るう剣が、異国から渡来した「見えざるの石」から作られた刀身が透明な伝説の太刀・天の一角。柄しか存在しないように見えるその姿は、人に隠れて悪を斬る、土竜にはふさわしいものかもしれません。
このように、主人公の設定が実にユニークな本作なのですが、しかし、ストーリー的には、類型的なのが残念なところ。
毎回毎回、田沼の権力をバックに悪事をし放題の黒曜衆に庶民が泣かされ、怒りゲージが頂点に達した土竜が登場、悪を斬って以下次回――の繰り返しというのは、時代劇定番のものではありますが、しかしもう少し捻りが欲しいな…と感じます。
これは一つには、主人公が普段は土蔵の中にいるため、どうしても起きる事件に受動的にならざるを得ないのが原因の一つでしょう。ユニークな設定が、両刃の剣となっていると見えます。
かわの先生お得意のアクションシーンはいつもながら迫力十分ですし、設定もユニーク。これでストーリーが面白くなれば鬼に金棒なのですが…作品のクオリティのほうは土竜と言わず、竜となって天を駆けてほしいものです。
「土竜の剣 大江戸落胤世直し帖」第1巻(かわのいちろう&狩野梓 日本文芸社ニチブンコミックス) Amazon
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