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2008.07.05

「爺いとひよこの捕物帳 七十七の傷」 未来と過去が解き明かす謎

 三年前の大火で父親が行方不明となり、今は叔父の下で岡っ引きの下働きをしている喬太。図体は大きくとも気が弱く気苦労ばかりの喬太は、ある日深川で和五助という不思議な老人と出会う。物腰は柔らかながら総身に傷痕を持ち、数々の戦場を潜り抜けたとおぼしい和五郎の助けで、喬太は次々と怪事件に立ち向かっていく。

 最近、何だか二月に一つは新シリーズを生み出しているような気がする風野真知雄先生がまたもや送り出した新シリーズは、「爺いとひよこの捕物帳」。何だか身も蓋もないタイトルですが、これがまた――いつもの通り――キャラクターといい舞台設定といい、なかなか面白い作品となっております。

 タイトルにある「爺い」と「ひよこ」とは、言うまでもなく和五郎と喬太のこと。江戸時代前期――ちなみに、関ヶ原からこの物語までの時間と、太平洋戦争から今現在までに流れた時間とがほぼ等しいのが面白い――戦争が歴史として語られる時代を舞台に、家康の傍で活躍した過去を持つ凄腕の忍びである(ことは隠して今は悠々自適の隠居暮らしの)和五郎と、知恵は回るが腕っ節と度胸はまだまだの喬太の老若二人の主人公が、不可思議な事件の謎を解明していくというのが基本パターン。

 渡し船上で刃傷沙汰を起こした犯人が水面を歩いて逃げたという「水を歩く」、奇怪な鬼の面をかぶった男たちによる強盗殺人の背後に伝奇的な犯人像が描かれる「戦国の面」、斑点のような小さな傷痕が残された死体から犯人と被害者の意外な繋がりが浮かび上がる「小さな槍」――いずれも一筋縄ではいかない事件ばかりですが、一種の安楽椅子探偵的なスタイルを取りながらも、答えをすべて明かすのではなく、事件を解決するのはあくまでも喬太自身というのが、青年の成長物語としての楽しさを本作に与える効果を挙げています。

 と、ひよこの方のドラマがこうして用意されている一方で、それでは爺いの方はといえば、こちらは和五郎が懐かしさと悔恨混じりに過去を振り返る形で、少しずつ語られていきます。
 朝鮮出兵から島原の乱まで、幾多の戦に加わった和五郎に残されたものは、体のみならず心にも残された数多くの傷痕。本書のタイトルにある「七十七の傷」は、実に和五郎のこの傷の数を指しているのです。
 喬太が事件を持ち込むたびに、和五郎の心身の傷が痛む…と書くとずいぶん重たい作品に見えるかもしれませんが、そうした過去の傷を乗り越えた…というか、受け容れて淡々と飄々と生きる軽やかさが、和五郎にはあります。

 未来に向かうひよこと、過去を思い出す爺い。事件の謎解きに、この二人の主人公のドラマが絡み、味わい深い物語となっている本作ですが、しかしそれだけで終わらないのが風野エンターテイメントの面白いところ。
 和五郎のまだまだ語られざる過去の存在が印象付けられるとともに、さらに、行方不明の喬太の父も、和五郎と思わぬ繋がりがあるらしいことまでもが描かれるラスト数ページでの急展開は、シリーズものの常道ながら、うまい構成だと感心する次第です。
 そしてもちろん、ここまで楽しませていただければ、次もまた読まなければと思ってしまうわけです。


「爺いとひよこの捕物帳 七十七の傷」(風野真知雄 幻冬舎文庫) Amazon
七十七の傷―爺いとひよこの捕物帳 (幻冬舎文庫 か 25-1)

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