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2008.07.19

「鏡花あやかし秘帖 からくり仕掛けの蝶々」 鏡花、迷える魂を救う

 幽霊が出るという噂の「妖し沼」の取材に訪れた新米編集者・香月は、それ以来、憂い顔の美女が現れる夢を繰り返し見るようになる。そんなある日、香月は担当作家の泉鏡花に誘われ、まるで生けるが如き美しい人形による芝居を見に行くが、そこで彼が出会ったのは、人間離れした美貌の少年座長と、「妖し沼」で恋人との心中に失敗した青年実業家だった。果たして香月の夢の美女の正体と、からくり芝居との関係は…

 泉鏡花と、その編集者を主人公とした耽美ファンタジーシリーズ「鏡花あやかし秘帖」の一編であります。それまで嶋田純子名義で他社から発売されていたシリーズが、本作より学研のもえぎ文庫で発売されているのですが、レーベルは格別、それほど妖しい(性的な意味で)部分もないとのことだったので思い切って読んでみました。

 泉鏡花は、言うまでもなく実在の小説家。幻想的、耽美的志向の強い作風の持ち主であり、また非常に個性的な人物であったと言われる鏡花は、なるほど本作のような作品の主人公とするには、まことに相応しい人物と言えるでしょう。
 もっとも、本作の鏡花は、数々のあやかしと交流を持ち、自身も兎形の式神を自在に操る、一種底の知れぬ人物として描かれているのですが…(とはいえ、伝奇小説・ホラー小説にはしばしば登場する「賢人」タイプのキャラとして扱うには、ぴったりの存在でありましょう)。

 作中の年代的には明治三十四年、「高野聖」を発表した直後であり、後の夫人である芸妓・桃太郎と出会って熱愛中の時期。まさに脂の乗りきった時期。そんな鏡花が、もう一人の主人公の香月青年とともに(というか香月青年に引っ張り込まれて)挑むことになるのは、自殺者が絶えず、そしてその亡骸が浮かび上がることはないと噂される魔所にまつわる事件であります。
 香月青年の夢に夜毎現れる幽霊がそこで心中した芸妓のものと知り、そしてその心中に生き残ってしまった男と知り合った鏡花が、他人事とは思えぬと乗り出すのは、うまい趣向であると思います。

 もっとも、内容としては、派手な幽霊・妖怪退治というわけではなく、死者に囚われた生者と、その生者に縛られた死者の、二つの魂を如何に救うかという救済の物語なので、活劇を期待すると肩すかしを食うことにはなりますし、話のスケールも冷静に考えてみると大きくないのですが、しかし人物配置・構成が個性的で面白いため、不満感はありません。
 題材的には決して明るいものではないのですが、香月青年をはじめとする良くも悪くも漫画的なキャラクターたちの掛け合いで、軽快なノリとなっているのも好感が持てます。


 正直なところ、「フツー男はそんなこと思わないし、しない」的なじゃれあいがふんだんに盛り込まれていて、また直接的な行為はないものの精神的にはどう考えても「あ、ほも」的な場面もあるので男性読者にはおすすめしがたいものがありますが、これはレーベルを考えれば文句を言う方が野暮な話でしょう。

 とりあえず、直接的なものがない限りは、シリーズの他の作品も読んでみようと考えているところです。


「鏡花あやかし秘帖 からくり仕掛けの蝶々」(橘みれい 学習研究社もえぎ文庫) Amazon
からくり仕掛けの蝶々 (もえぎ文庫―鏡花あやかし秘帖)

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