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2008.07.26

「四ツ目屋闇草紙」 鳴滝塾五十八番目の男、江戸に現る

 ある日長崎から江戸に帰ってきた紙屋小三郎と名乗る青年。「紙屋えろす堂」なる不思議な商売を始めた彼の正体は、松平定信の落胤にして真田幸貫の弟、そして海外渡航未遂という大罪を犯したシーボルトの秘蔵弟子、鳴滝塾五十八番目の男だった。小三郎の正体に不審を抱いた幕閣は、密偵・鳥居耀蔵に調査を命じる。徐々に狭まる包囲網に小三郎は…

 同じ作者の「吉宗影御用」シリーズにも、主人公の一人の職業として登場した四ツ目屋は、江戸に実際にあった職業、というか商店。今の言葉で言えば大人のおもちゃ屋といったところで、まあ人間というものの中身はそうそう簡単には変わらないものだと思います。
 学研M文庫の時代小説レーベルの第一弾の一つとして刊行された本作のタイトルにあるように、主人公の職業は、この――個性的ながら、ネタがネタだけになかなか小説には出しにくい――四ツ目屋(正確にはそのライバル店)。それを営むのが、シーボルトの弟子、つまり当時としては最先端の蘭学を修めた男、しかもあの松平定信のご落胤と目される俊英、というのが何ともユニークかつ皮肉な設定であります。

 そして小三郎だけではなく、彼を取り巻く人々もまたユニーク。小三郎の「兄」は、後に老中・海防掛担当として活躍した真田幸貫、そしてその臣であり小三郎の弟分は佐久間象山、小三郎と知り合い意気投合するのは、若き日の幕末のフィクサー・水野忠央…これにねずみ小僧、さらに敵役として同じく若き日の鳥居耀蔵(白面の貴公子として登場するのに吃驚)まで登場し、敵も味方もまさにバラエティに富んだ顔ぶれであります。誰でも知っているような有名人から、ちょっと通好みの偉人まで、実に多士済々というべきでしょう。

 が――正直なことを言わせていただければ、このユニークな登場人物と舞台設定を、ストーリーが十分に生かし切っていないという印象が本作にはあります。活劇あり陰謀あり、笑いあり濡れ場ありと、およそ娯楽時代小説にあるべき要素は一通り揃ってはいるのですが、それが一つにまとまり、大きなうねりとなって物語を盛り上げているかといえば…であります。
 普通であればクライマックスに明かされるべき小三郎の素性が、物語の冒頭で語られてしまうという、一見不思議な構成が、最後の最後に意外などんでん返しとして効いてくる構成は見事なのですが…

 おそらくは小三郎と仲間たちの活躍の、これは大いなるプロローグとして位置づけられる作品なのだと思いますが、刊行以後七年、続編は現在に至るまで発表されていないのが――キャラクター設定などは実に魅力的なだけに――色々な意味で実に勿体ないお話ではあります。


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