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2008.07.23

「世話焼き家老星合笑兵衛 花見の宴」 ミクロな救いとマクロな救い

 飛鳥山で盛大な花見の宴を開催することとした吉宗。その命を狙う尾張宗春は、人を激しく興奮させる桜の品種を生み出した元家臣で今は旗本の桜井玄蕃に目をつける。娘の千草を誘拐され、やむなく宗春に協力する玄蕃だが、千草と孫娘が親友であったことから星合笑兵衛はこの陰謀を察知。天下の一大事を前に、星合一家の世話焼きがまたもや始まる。

 私が今最も楽しみにしている時代小説の一つ、「世話焼き家老星合笑兵衛」シリーズの、待望の最新巻が発売となりました。前作で混血の少女・花を一員に加えた星合一家が、花見の宴を舞台とした将軍吉宗暗殺計画に挑むこととなります。

 本作の主役の一人はその花。前作で描かれた事件で星合家に助けられ、笑兵衛の息子・健吾の養子――つまり笑兵衛の孫――となった花の、日本での初めての友達が事件に巻き込まれたことから、星合家が乗り出すことになります。

 本シリーズの特長の一つは、ミクロな救済とマクロな救済が――そして両者を繋ぐのが笑兵衛の世話焼き精神であるわけですが――同時に行われることにあるかと思います。つまり、作中での星合家の活躍で救われるのは、単に(と言い切れるのがこのシリーズの凄いところ)天下国家の静謐のみならず、その静謐を乱すために利用される一般人の小さな幸せなのであります。
 そして言うまでもなく、花もそのミクロな救済によって幸福を得た一人。その彼女がまた他人の幸福を守ろうと奮闘するのが、実に気持ち良く感じられます。

 一方、マクロな局面においては、これまで繰り返し描かれてきた吉宗と宗春の対立にも、大きな変化が生じます。吉宗と宗春、紀州と尾張の対立は、数え切れないほど多くの作品の題材となっていますが、本シリーズにおいても、それが背景になってきました。
 天下を、すなわち吉宗の命を狙い陰謀を巡らせてきた宗春の心境に、ある変化が本作のクライマックスで生じます。その詳細についてはここでは述べませんが、それを呼んだのは、星合一家の一人の、飾らない――それだけに心からの――言葉というのが実にらしい展開ではないかと思います。

 何だかもう一人家族が増えそうな気もする本シリーズ、そろそろクライマックスを迎えそうな印象もありますが、まずは次なる世話焼きに出会える日を楽しみにするとします。


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