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2008.07.16

「竹千代を盗め」 上忍苦労記

 甲賀の上忍・伴与七郎に、松平元康の臣から、人質として駿府に残された元康の妻子奪還の依頼が来た。四百貫文の大仕事に浮き立つ甲賀者たちだが、いざ駿府に向かってみれば、元康の妻子は今川館で厳重に守られ、今川配下の武芸者衆と間者によって次々と甲賀者たちは倒されていく。追いつめられた与七郎は、驚くべき逆転の策を思い立つが…

 松平元康、すなわち後の徳川家康が、幼少期から人質として今川家で育ち、今川義元が織田信長に討たれた後、ようやく独立への第一歩を踏み出したというのは有名な話。本作は、まさにその時期を舞台に、歴史の舞台裏で起きた事件を描いた一風変わった忍者ものであります。

 一風変わったというのは、本作の主人公が上忍、それも妙に生活感に溢れたというか、所帯じみているというか、そんなキャラクターである点。百鬼丸氏のコミカルな表紙イラスト(いしいひさいちの「忍者無芸帖」をどことなく連想させます)がぴったりの、ペーソス溢れる存在なのです。

 忍者もので上忍というと、ピラミッド構造の身分社会の頂点でふんぞり返って下忍をアゴで使い、抜け忍には死の掟で制裁を加える恐ろしい存在…というのが定番のイメージですが、本作の主人公・伴与七郎は、むしろ現代で言えば、中小企業の社長のようなイメージ。
 先代の放漫経営のおかげで左前になった一族を率いて、鉄砲の弾一つもおろそかにしないコスト引き締めを実施、依頼主に対しては、算盤を弾いて必要経費を算出して報酬の交渉…と、何だか涙ぐましい努力の数々。
 依頼主は最初言っていたのと全然違う条件を後から出してきて、しかもコストは同じでやれと言い出すし、しかし報酬を払わないと部下はすぐに逆らうし――

 そんな等身大の主人公が、それでも忍者として仕事を成功させるべく奮闘する様には、爽快感や格好良さはないものの、何だか応援したい気分になってきます。

 そして与七郎が傷だらけになりながら必死に戦うもう一つの理由、それが、前金と引き替えに人質にされた(世知辛いな、ホント)息子を救い出すためなのですが――この与七郎と息子の関係が、元康と竹千代の関係と対比されているのは言うまでもありません。
 共に子を救おうとしながらも、しかしその背後にある想いの違いが明確となるラストには、何とも言えぬもの悲しい気分に――竹千代のその後の運命を考えればより一層――なったことです。

 決して派手でも爽快でもない作品ではありますが、ユーモラスで暢気なムードの中に、どこか心に残るものがある、不思議な味わいの作品です。


「竹千代を盗め」(岩井三四二 講談社) Amazon
竹千代を盗め

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