« 「無限の住人」第23巻 これまさに逸刀流無双 | トップページ | 「土竜の剣 大江戸落胤世直し帖」第1巻 土竜は天を駆けるか? »

2008.07.01

「血文字GJ 猫子爵冒険譚」 猫子爵、まずは小手調べ?

 1920年代のベルリンの闇で次々と繰り返される猟奇殺人。旧友がその犠牲者の一人となった少女伯爵ウルリーケは、一人事件の捜査に乗り出すが、その前に奇怪な怪人たちが立ちふさがる。絶体絶命の窮地に陥ったウルリーケの前に現れたのは、彼女の幼馴染みの青年貴族、「猫子爵」の異名を持つ鷹宮洋一郎。気まぐれな猫子爵に翻弄されつつも、真相に迫ったウルリーケが知った新聖堂騎士団の恐るべき陰謀とは…

 冒険活劇…それも神秘と懐古の色濃いそれは、私にとって時代伝奇に次ぐ大好物なのですが、ほとんど常にそのツボを突いてくるのが赤城毅先生の作品群です。本作「血文字GJ」も、もちろんその一つ。
 戦間期の、混沌と退廃の色濃いドイツを舞台に、暴れ回る怪人・凶人・獣人を向こうに回して、欧州の古怪な魔術貴族の血を引く日本人貴族が、禍々しい魔術的陰謀を暴くという、モロに私好みの作品であります。

 何よりも面白いのは、敵――新聖堂騎士団というのがベタながら良いですね――が擁する殺人鬼たちの設定でしょう。「医師」、「肉屋」、「宿屋」、さらにはカリガリ博士と眠り男ツェザーレ(!)…いずれも奇怪な経歴と能力を持つ彼らの多士済々ぶりは、(いささかネタバレ気味ですが)20世紀初頭欧州版「魔界転生」的な趣すらあります。

 もちろん、敵が怪奇かつ強大であれば、主人公もまたそれに見合う存在でなければなりません。本作の主人公・猫子爵こと鷹宮洋一郎は、日欧混血の美男子で頭脳明晰、警察にも顔が利き、大陸仕込みの体術と、そして何よりも欧州の古ぶるしき魔術を操る、本作の舞台にはまことに相応しい人物であります。
 が、そんな彼に唯一欠けているのが、ヒーローたる自覚というか心意気というか…「猫」とあるように、怠惰かつ気まぐれ、そして時に残酷…快男児という言葉からは最も縁遠いひねくれたキャラクターとして造形されているのが、良いアクセントとなっております(もちろん、ヒロインたるじゃじゃ馬…いや、美少女伯爵ウルリーケの危機には、不満気な顔をしつつも常に颯爽と駆けつけてくる辺りは、しっかりヒーローしてます)。

 まあ、正直なところを言えば、本作の題名となっている「血文字GJ」を記した男が何者であるかは(GJの中身自体は一ひねりありますが)は、ほとんどの方に一発でわかってしまうかと思いますし、この手の作品の愛好家にとっては、敵の陰謀が「本当にこれでいいの!?」的な直球ど真ん中なものなのが、不満点ではあります。
 この辺りの詰めの甘さにはちょっと苦笑させられましたが、少なくとも後者は――作中の言葉にあるように――主人公に対する敵の(志、目的的な)卑小さを描き出し、以て主人公の存在感を高めているのでありましょう。特異なヒーローの登場編として、まずは小手調べ、というところでしょうか。

 もちろん、上記の殺人鬼たちのように、本作ならではのユニークな設定はまことに愛すべきものがありますし、有賀ヒトシ先生によるイラストも、ダークで狂騒的な世界観に実によくマッチしており、狙い所はきっちりと押さえている作品であることは間違いありません。続巻も楽しみであります。


「血文字GJ 猫子爵冒険譚」(赤城毅 祥伝社ノン・ノベル) Amazon
血文字GJ―猫子爵冒険譚 (ノン・ノベル)

|

« 「無限の住人」第23巻 これまさに逸刀流無双 | トップページ | 「土竜の剣 大江戸落胤世直し帖」第1巻 土竜は天を駆けるか? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/41701137

この記事へのトラックバック一覧です: 「血文字GJ 猫子爵冒険譚」 猫子爵、まずは小手調べ?:

« 「無限の住人」第23巻 これまさに逸刀流無双 | トップページ | 「土竜の剣 大江戸落胤世直し帖」第1巻 土竜は天を駆けるか? »