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2008.08.23

「飛狐外伝 1 風雨追跡行」 手八丁口八丁の快男児

 先日紹介した「雪山飛狐」のビフォア・ストーリーである「飛狐外伝」の文庫版が刊行開始されました。「雪山飛狐」の中心人物であった好漢・胡斐は、登場時に既にある程度完成された人物で、出番もさほど多くなかったのですが、本作ではその胡斐の子供時代からの成長物語が描かれることになります。
 実は本作、単行本時は「雪山飛狐」からずいぶんと後に刊行されたこともあって、私は未読だったのですが、これを良い機会に早速第一巻を手に取りました。

 誕生してすぐに父・胡一刀が好敵手・苗人鳳との決闘で敗死し、母もその後を追ったために天涯孤独の身の上となった胡斐。「雪山飛狐」では、次に登場した時には既に江湖で威名を轟かせている成長した姿となっていた彼ですが、本書は、彼がまだ幼い子供時代からスタートし、前半では、子供時代の胡斐が、父、そしてその仇である苗人鳳に深い恨みを持つ武術家の遺族の復讐に巻き込まれる様が、そして後半では、それから数年後、江湖を渡り歩くようになった胡斐が、悪辣極まりない権力者・鳳天南に戦いを挑む様が描かれることとなります。

 さて、登場人物ほとんど全てに裏の顔があった「雪山飛狐」ほどではないにせよ、本作の登場人物も、ストレートな英雄好漢は少なく、ほとんどが悪人か陰謀家、あるいはダメ人間なのですが、それを補って余りあるのが、胡斐の陽性のキャラクターであります。
 金庸作品の主人公は、どちらかといえば、人が良かったり思慮深かったりといった、おとなしめの人物造形が多い印象がありますが、胡斐の主人公はそれとはむしろ正反対の、手八丁口八丁の強者というイメージ。武術の腕は言うまでもないことながら、舌先三寸で江湖の連中をきりきり舞いさせ、悪党を叩きのめす様は実に豪快で、むしろ「水滸伝」の豪傑連中的な部分があります。
 「雪山飛狐」では、胡斐以上に印象に残るキャラクターであった胡一刀の豪快さ(それが本書の前半の騒動の種になるのですが…)をそのまま受け継ぐような性格で、個人的には大いに気に入ったところです。


 また、冒頭に述べたように、本作は「雪山飛狐」のビフォア・ストーリーであり、胡斐のみならず、様々な人物の「その前」が描かれることになります。その最たるものが、胡斐の父の仇である苗人鳳でありますが、その他にも、「こいつは昔はこんなだったのか!」的な人物の顔見せありと、読みながらニヤニヤできるものがありました。
 そして同時に本作は、金庸の処女作「書剣恩仇録」のアフター・ストーリーであるのがまた面白い。この第一巻では、「書剣恩仇録」で大活躍した秘密結社・紅花会の第三位で、暗器と太極門の名手・千手如来の趙半山がゲスト出演し、実に気持ちの良い活躍ぶりで、これまたファンにとってはたまらない展開であります。

 もちろん、このような作品間のリンクは、一歩間違えると一見さんお断りになりかねず、また本作独自の物語展開を縛ることにもなりかねないのですが、さすがに金庸先生、少なくともこの第一巻の時点ではその辺りへの目配りには問題なく、独立した作品としてきっちり楽しめるようになっております。
 第一巻のラストには、いかにも金庸節のツンデレ美少女も登場、さてこれから胡斐の運命とどう絡んでいくのか…あと二巻、文庫になるまで待っていられない、というのが正直なところです。


「飛狐外伝 1 風雨追跡行」(金庸 徳間文庫) Amazon
飛狐外伝 1 (1) (徳間文庫 き 12-36 金庸武侠小説集)


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