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2008.08.10

「若さま侍捕物手帖 縄田一夫監修・捕物帳傑作選」 若さま久々の復活

 以前にも書いたかもしれませんが、捕物帖の中で私が最も好きなシリーズは城昌幸の「若さま侍捕物手帖」シリーズであります。いわゆる五大捕物帖の中で、唯一職業探偵が主人公でない本シリーズですが、そのせいか雰囲気もずいぶんと通常の捕物帖と違い、江戸情緒溢れる中にもどこか洒脱な味わいのある爽快な作品なのです。
 この度、徳間文庫の「縄田一夫監修・捕物帳傑作選」の一つとして、本シリーズが収録されましたが、その中には実に半世紀前(!)に単行本化されて以来となる作品も収録されており、ファンとしては誠に欣快の至りです。

 本書に収録されているのは「紅鶴屋敷」と「五月雨ごろし」の二つの中編。うち、今回復活したのは前者であります。
 この「若さま侍捕物手帖」は、ミステリのジャンルで言えば、いわゆる安楽椅子探偵。基本的に主人公の若さまが柳橋米沢町、船宿喜仙の二階座敷で、看板娘のおいとを相手に、床柱を背に膳部を据えてちびりちびりとやっているところに岡っ引きの遠州屋小吉から事件が持ち込まれて、座敷にいながらにして解決、というのがパターンですが、本作においては、珍しく――尤も、中長編ではさすがに座敷に座りっぱなしというわけではないのですが――江戸を飛び出して、若さまは神奈川のはずれの漁村に姿を現すことになります。

 江戸の呉服問屋・越後屋の番頭が殺害された一件の背後に、大規模な抜け荷、それも大大名も絡んでのものが潜んでいると知った小吉ですが、しかしさすがに大名も絡んでの事件に手が出せるはずもなく…というところで小吉が事件を持ち込んだことから若さまの出陣。殺された番頭の肩に、物堅いはずの商人には珍しい赤い鶴の刺青が彫られていたのに目をつけた若さまは、神奈川にある越後屋の寮が、通称・紅鶴屋敷と呼ばれていることから現地に乗り込んで――というのが本作のあらすじ。紅鶴屋敷の謎あり、悪女の跳梁あり、越後屋の身代を巡る争いあり…と、なかなかに盛りだくさんであります。

 とはいえ、探偵ものとしても時代(伝奇)ものとしても、さまでインパクトのあるものではないのが正直なところで、名作かと言われればうーん…というところ。どこに行っても何をしても若さまは若さまで、その伝法な口調も気持ちよく、一種のキャラクターものとして見ると実に面白く、ファンとしてはそれだけで嬉しくなってしまうのではありますが。


 もう一編の「五月雨ごろし」の方は、これは春陽文庫版で非常に手に入れ易かったこともあり既読でしたが、二重生活者の死を発端とする物語で、作中で発生する殺人事件の方は大した謎解きではないのですが、なぜ被害者が二重生活を送ったか、という謎解きに不思議な味わいがある作品でありました(そしてもちろん、こちらでも若さまは若さまらしくて素敵なのですが)。

 結局のところ、シリーズに初めて触れるファンにお勧めかというとちょっと難しいところですが、シリーズの熱心なファンにとっては楽しい一冊であるかと思います。


「若さま侍捕物手帖 縄田一夫監修・捕物帳傑作選」(城昌幸 徳間文庫) Amazon
若さま侍捕物手帖 (徳間文庫 な 18-10 縄田一男監修・捕物帳傑作選)

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