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2008.08.21

「絵巻水滸伝」 第七十二回「泰山」 思いもよらぬ因縁の糸

 もう四半世紀前(!)になってしまうのですが、1983年に公開された「水滸伝」という映画があります。長大な原作のうち、燕青を主役として、泰山奉納相撲のエピソードを取り出してアレンジした作品は、今見ればたぶん…な出来だと思うのですが、昔の私にとってはずいぶんと面白い映画に思えて、これが水滸伝にはまるきっかけだったように思います。
 さて今月の「絵巻水滸伝」は、この泰山編。やはり燕青が主役となって、奉納相撲で無敵の男・任原と対決するエピソードなのですが…ちょっと意外なアレンジがほどこされていました。

 前回のエピソードからそのまま続いて、東京を飛び出してきた燕青と李逵が、梁山泊にも帰らずに放浪の果てにたどり着いたのが奉納相撲で沸く泰山。この奉納相撲で優勝した者は、罪を赦されて軍に採用されるということで、各地から腕に覚えの無頼漢たちが集まってきたこの泰山で、燕青は様々な男たちと出会うことになります。

 原典では、割合あっさり目のこのエピソード、燕青が奉納相撲に飛び入りして任原を倒し、李逵が大暴れしてその場は滅茶苦茶に…という筋自体は変わらないのですが、そこに絡んでくるのが、この先の物語で登場するキャラクターたちというのが面白い。
 元盗賊ながら今は官軍の十節度使として、梁山泊討伐に現れる王煥と項元鎮。四寇の一として梁山泊と激戦を繰り広げる田虎軍の孫安・崔埜・文仲容(唐斌は?)――
 ここでこの連中が出てくるか! という印象で、思わぬところで因縁の糸を張り巡らせてくるセンスは、「水滸伝」物語を知り尽くした上で再構成する作者ならではのものだな、と嬉しくなります。
 原典の七十一回以降のエピソードは、とかく戦争の連続で、「水滸伝」の最大の魅力であろう、登場人物の生き生きとした活躍、そして登場人物同士の因縁が、それ以前に比べて薄い部分もあるのですが、その辺りを補強しよう、ということなのでしょう。

 まあ、そのあおりを食ったような形で、肝心の任原がほとんど目立ちませんでしたが…(原典と違って生き残ったようなのでまあよいかもしれません)。
 とはいえ、梁山泊で相撲と言ったらこの人、のはずなのに原典ではほとんど無視されていたあの豪傑が思わぬ活躍をみせたりと、その辺りもうまいなあ、と思ってしまうのですが。


 さて、第一部の終盤からこの第二部の序盤に至るまで、ほとんど主人公扱いの燕青でしたが、そこでの描写は、梁山泊の他の豪傑ともまた違う、自由を求める男、という印象。今回の泰山編も、その想いゆえの放浪といったところですが、今回のラストに彼の主人である盧俊義と再会して、ひとまずは己の居場所に戻った様子で、何となく安心いたしました。
 次回タイトルは「招安」、今後の物語に凄まじく大きな影響を与える出来事が起きることになりますが、さてこの「絵巻水滸伝」の豪傑たちは如何に反応を見せるのか…ここ何回かは比較的のんびりしたエピソードが続いただけに気になるところです。


公式サイト
 キノトロープ/絵巻水滸伝


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