「ジキルとハイドあらわる! 帝都〈少年少女〉探偵団」 ハイドたちとの戦い
驚天動地の趣向で毎回驚かせてくれた帝都少年少女探偵団の長編シリーズも今回で一区切り。吸血鬼、透明人間、人造人間ときて、さて今回のモンスターは…って、ジキルとハイド!?
いや、さすがにそれは無理があるのでは…常人よりも力はあるとはいえ、大した特殊能力があるわけでもないし、量産されても…と思っていたら、嬉しい裏切りが待っておりました。
奇怪な殺人事件の発生から物語が始まる、というのはこれまでのシリーズと全く同じ、そして黒岩涙香先生の超推理でモンスターの正体が…というのも同じなのですが、そこからの展開が凄まじい。
その後殺人事件の犠牲者はほとんどねずみ算的に増加していくのですが、その犯人は、モンスターなどではなく、直前までごく普通の生活をしていた人間たち。なるほど、ジキルとハイドあらわるとはこういうことか…と膝を打っている場合ではなく、これまでのようにモンスターを退治すればおしまい、ということにはならないわけでこれは相当にまずい状況。
しかも、黒幕に扇動された大量のハイドたちが万朝報を占拠、涙香先生と探偵団を追いつめていくという展開には、よくもまあこういう展開を考えついたものだと感心いたします。
そして本作の面白いのは、こうしたアクション&サスペンスだけでなく、そこに一種のミステリ的な合理性が見られる点。
どうやって多くの人々をハイド化したのか? という犯行手段が、そのまま黒幕にとっては数々の陰謀を潰されてきた宿敵である万朝報を利用し、窮地に陥れる仕掛けとなっているのには唸らされましたし、ラスト、これはもう絶対どうやっても逆転は無理! という状況で、この仕掛けを逆用したかのようにして救いの手が現れる趣向も――いささか理想的に過ぎますが、しかし「ジキルとハイド」という存在、物語の構造を考えればこれは正しい展開です――うまいと思います。
主人公たちが所属するのが万朝報というマスコミであることを、きちんと活かしてみせた展開であると言えるでしょう。
もちろん子供向け小説ゆえの限界というか、食い足りない部分は色々とあるのですが、本作のみならず、シリーズを通して、ほとんど反則的な力技でモンスターたちを帝都東京に復活させながら、そのインパクトに留まらず、そのモンスターの本質を活かしてさらに空想の翼を広げて見せた作者の手腕には敬意を表します。
冒頭に書いたとおり、シリーズは本作で一区切りとのことですが、またいずれ、こちらを驚かせるような物語に出会えることを期待したいと思います。
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