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2008.08.27

「怪奇死人帳」 異界への索漠たる憧れ

 武士の次男坊・十次郎は、古書店で「死人帳」と題された鉄の表紙の本を手に入れる。そこには、死神の手により死の世界の秘密が記されていた。しかし、秘密を知った十次郎のもとに死神が現れ、彼を死の世界に連れ去ろうとする。必死に抵抗しようとする十次郎だが…

 今はかつてないほどの水木しげるブーム、というか水木先生が世の中に受け入れられている時期かと思いますが、助かるのは、なかなか読むことが出来なかった作品を、比較的手軽に読むことができることであります。
 水木先生の時代怪奇漫画たる本作「怪奇死人帳」もその一つ、以前は手に入れにくい(古本の価格的に)作品だったのが、文庫で読めるとはありがたい話です。

 さて、その本作を一言で表せば、やはり「怪作」と言うべきでしょうか。
 鍵がかけられた鉄の表紙の「死人帳」、その奥付の住所(冷静に考えればこれも何ですが…)に向かってみればそこには店どころか人の住居すらなく、十次郎が見たのは奇石と、その下の洞窟の石棺のみ…
 と、実に伝奇ホラーとして素晴らしい冒頭部分から、死人帳を取り戻しに来た死神が出現するあたりのムードは実にいいのですが、その死神と命を賭けた将棋勝負が始まる辺りから何だか雲行きが怪しく…

 さらに、十次郎が新たに就くこととなったお城のお花番というのが、これが人喰いの怪奇植物をはじめとして奇怪な花の咲き誇る毒草園の番人、さらにそこにはホーソーンの「ラッパチーニの娘」めいた美しくも哀しい毒娘が! となると、十次郎同様、読んでいるこちらも状況のあまりの変転ぶりに、己の意志を失ったかのようにただついていくのがやっと、と大袈裟に言えばそんな気分になります(この辺り、私は未読なのですが、本作のオリジナルである貸本漫画「死人妖棋帳」はどうなのでしょうね)。

 しかしそんなそれぞれの構成要素自体は実に面白いのが本作の不可思議な魅力で、それが終盤に混然一体となって溶け合い、一種の悟りめいた境地にたどり着くのには、他では味わえぬ妙味がありますし――結末で十次郎が感じる、異界への索漠とした憧れの念などを見ると、ああやはり水木作品だなあ、と感じさせられます。


 ちなみに本作、絵的には非常につげ義春タッチなのですが、発表時期的に、つげ先生が水木先生のアシスタントに入った直後くらいと思われるので、これはまあそういうことなのでしょう(してみると、本作の味わいの何割かはつげ先生のおかげなのかしら…)。


「怪奇死人帳」(水木しげる ちくま文庫「妖怪たちの物語」) Amazon

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