「現代語で読む「江戸怪談」傑作選」 怪談の意義語る好著
毎年夏になれば書店に並ぶ怪談本の数々。そのほとんどが現代を舞台としたものですが、中には江戸時代などの古典怪談を集めたものもあって、怪談のバラエティの豊かさというものを感じさせてくれます。
今年も古典怪談本が何冊か出版されましたが、その中でも、この「現代語で読む「江戸怪談」傑作選」はなかなかに充実した内容で、興味深く読むことができました。
本書は、基本的にタイトル通り、「諸国百物語」「伽婢子」「因果物語」といった江戸時代の諸国怪談、仏教説話集から採られた怪談を現代語訳して収録しています。
この現代語訳の部分自体、硬すぎず柔らかすぎずの訳文が楽しく、なかなか面白いのですが、しかし本書の内容は、単なる古典怪談の内容紹介、現代語訳に留まりません。
本書の最大の特長は、テーマ毎にまとめられた各章に、その解題が付されていることでしょう。
その物語の題材が、社会風俗史的にどのような意味をもっているのか。その物語を成立させている社会的歴史的背景は何か――と書くと、何やら難しく見えますが、平易な文体でわかりやすく的確に記されており、この辺り、さすがは堤先生と感心いたしました。
たとえ超自然的な、現実離れした内容が語られていたとしても、怪談というものは、決して現実から完全に乖離したものではなく、それどころか現実というものによって、ある程度その内容を規定されるものであると私は思います。
それは言い換えれば、怪談というものが現実を映し出す鏡のようなもの、ということですが、本書の解題に描かれているのは、まさにこの点であります。
人間が何を怖がってきたか、そして何が人間を怖がらせてきたのか…それを知ることが、当時の社会体制や規範意識というものを知るよすがとなるというのは、何だか不思議で、しかし愉快なことであります。
怪談本としての楽しさは言うまでもなく、その背後にあるもの、突き詰めれば怪談というものが存在する意義まで教えてくれる本書。ビギナーからマニアまでおすすめの好著です。
ちなみに…伝奇者的には、諸国行脚の僧が富士山で曽我十郎と大磯の虎の亡魂と出会い、武田信玄が曽我五郎の転生であることを告げられるという物語にずいぶんとワクワクさせられたことです。
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